4

1/1
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

4

 添乗員さんと兄貴が話す中、俺は輪に入れなかった。暇つぶしの道具もなく、渋々窓の外を眺める。ワゴン車は駅前の街から離れていき、橋を渡ると川沿いの道を走っていた。そこには十数人が乗った船が浮かんでいる。 「右前方に見えますのは富岩運河になります。全長約5キロメートルがあり、途中には国の指定文化財となっている水のエレベーターがあります」  添乗員さんが手で運河を指し、説明してくれた。運河のそばには木々が生え、自然に溢れている。 「水のエレベーターって」 「正式名称は中島閘門という名前で、門の中にある水を調節して動くんですよ」  そう言われ、エレベーターに乗った船を想像した。あまりはっきりとしたイメージが湧かず、俺は首を傾げる。 「口で説明するのは難しくて。実際に乗ってみるとよく分かるんですけどね」  添乗員さんは苦笑し、さらに案内を続けた。案内や説明を聞いているうちに運河は過ぎ、山が見えてくる。  やがて、ワゴン車は低い山の麓で止まった。 「ありがとうございます」  兄貴がお礼を言い、車を降りていく。 「外は暑いので、気を付けてくださいね」  添乗員さんに声をかけられ、俺は頭を下げる。降りてみると熱風が吹き抜けた。まもなくワゴン車は行ってしまう。まだ車の中にいたかった。俺が遠くの車を眺めている一方で、兄貴が黙々と森林の中にある石階段を上がり始める。俺もワゴン車を見送ったあと、渋々ついていった。  石階段を上がり終えると、坂道が見えてくる。坂道は道路が上下に続いており、先が曲がりくねって見えない。石階段と坂道の間には看板があり、一番上には呉羽山展望台と書かれていた。周囲にある資料館も木造建築ばかりだ。 「展望台に行くぞ」  石階段を上がって休む間もなく、兄貴が坂道を登り始める。坂道はたまに車が通る程度で歩行者はいない。木には囲まれているが、アスファルトの照り返しが暑かった。俺は犬みたい息を切らしながら歩いていると、兄貴が足を止めリュックサックの中を探る。そして、俺の前に差し出したのは水筒だった。しかも、プラスチックのコップ付きだ。 「まだこんな古臭いもの使ってんのか」 「文句言うなら飲ませないぞ」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!