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 俺は兄貴の手から水筒を受け取った。コップに水筒の水を入れ、それを口に流し込む。冷えた水が体内を通り染み入った。コップを水筒に取り付けてから返す。それを受け取ると、リュックサックに入れ、坂道を歩き出す。しばらく坂道を上っていると、また木造建築の資料館が見えた。そこには売薬資料館と書かれている。 「なあ、売薬ってなんだ。そのまま売り薬って意味なのか」  兄貴に聞いてみると、 「富山は配置売薬で有名なんだ。薬屋が各家庭を訪れて、薬を置き、一年後に使用した分だけ代金を受け取るという方法で薬を売っていたんだ」  と説明した。家を一件ずつ回って薬を置いていくのか。 「なんていうか、めんどくさそうな仕事だな」 「昔は薬がどこでも買えたわけじゃないからな」  話しながら歩いていると、道が平らになっていった。先の方が開けて空が見える。さらに進んでいくとベンチや簡易的な休憩スペースがあり、看板には展望台とあった。 「着いたぞ」  兄貴と俺はそこから富山の街を見下ろした。建物は多いものの高い建物は少なく、遠くにうっすらと山が見える。 「やっぱり東京と比べるとビルとかあんまりないんだな」 「これくらいが丁度いいんじゃないのか」  俺が近くのベンチに座ると並ぶように兄貴も座ってきた。妙に気まずくなって俺は一人分距離を空ける。景色を眺めていると兄貴が俺に話しかけてきた。 「しかし、驚いたな。この山を登りきるなんて。途中でリタイアすると思ってた」 「バカにするなよ。呉羽山っていうけど、丘なんだろ」 「偉そうに言うな。初心者用の山ですら、すぐに無理だって何回も言ってたのに」  俺は腹が立ったが、すぐにそっぽを向いて落ち着こうとした。兄貴が言ったときの記憶がよぎる。子供や女性が山を登っていく中、文句を垂れる俺の姿。みっともなかったな。思い出すだけで顔が赤くなった。しばらくして、隣に座っていた兄貴が立ち上がる。 「そろそろ降りはじめよう。バスに間に合わなくなる」  腕時計を確認すると、来た道を戻り始めた。
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