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降りた停留所に行くと、ワゴン車がその前まで来ている。扉が開き、聞き覚えのある声がした。
「お帰りなさい」
それは先ほどの添乗員さんであった。まさか、同じバスに乗るなんて。温かく迎えられ、俺も思わず「ただいま」と返す。椅子に座るとワゴン車は出発した。ワゴン車は橋を渡り、街中へ出た。運河周辺とはうってかわって高い建物が多くなったが、どこかのどかな雰囲気が漂う。
「とても暑かったでしょう。呉羽山はいかがでしたか」
「富山の街並みが一望できました」
添乗員さんに話しかけられ俺は答えた。車内を見まわすと、また俺たちだけでまさに貸し切り状態になっていた。
「俺たちのあと、誰か乗りましたか」
「家族が一組だけ。ほとんどドライブしているような気分で」
そう言って添乗員さんが苦笑する。ふと、俺が窓の外を見ると工場のような建物があった。その上には広貫堂と書かれている。
「あれはなんですか」
「あちらの建物は広貫堂という会社です薬を製作していますが、最近は化粧品や健康食品なども作ってますね」
説明を聞いて、兄貴が話していたことを思い出す。
「あの、広貫堂って売薬もしていたんですか」
「そうなんですよ。売薬なんてよく知っていますね」
添乗員さんが褒めるように俺に笑いかける。照れくさくなって、俺は思わず目を背けた。
「実は私も家も祖父の代まではやっていたんですよ。でも、経営が厳しくなっちゃって。現在は薬を簡単に手に入れることが出来るし」
そう話す添乗員さんの視線が下がっていき、顔が曇る。車内の空気が淀んでいった。声をかけようとしても、なんて声をかけるべきか。
「ごめんなさいね。辛気臭い話しちゃって」
察してくれたのか、添乗員さんは特有のノリで謝った。しかし、からげんきに見えていたたまれない。黙っていると、兄貴が口を開く。
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