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薄暗い部屋の中、しきりに鳴るノックの音で俺は目覚めた。ホテルのベッドは固く、そのせいか体がだるい。目を擦りながら起き上がると、机の上にある大きめの鏡に映った。目は半開きで、髪は四方にはねている。机の上に置いているスマートフォンに手を伸ばし、時間を確認する。8時30分。その数字を見た瞬間、俺は完全に目を覚ます。
やばい、寝坊した。
焦っていると、ノックが先ほどよりも激しくなる。俺は頭をかきながら、急いでドアへ向かい、カギを開けた。その瞬間にドアノブが捻られ、ドアが開こうとする。しかし、ドアチェーンが掛けられているので、腕が通る幅しか開かない。俺は恐る恐る、その隙間を覗いてみた。
すると、大きく開いた二つの目が見えた。俺は叫び声を挙げそうになり、口元を押さえる。目の周囲を観察してみると、髪は目にかかるほど伸びていた。無精髭が生えたホームレスのような男が立っていた。兄貴だ。恐怖心は治まったが、別の緊張感が高まる。
「ごめん、5分で支度するから」
髪を整えつつ俺が謝ると、兄貴はゆっくりと口を開く。
「もういい。9時出発にする。あと、朝ごはん買ってきてやるから、ドアを開けておけ」
怒ることも心配することなく、兄貴は淡々と用件を伝えて離れていった。俺は安堵のため息をつき、額の汗を拭う。そして、部屋に戻るとベッドに座った。その直後、スマートフォンからLINEの通知音が鳴る。見ると、友人から誘いがあった。
『今日遊びに行かないか?』
『行く』
『俺も』
と各々返事をしていく中、俺はため息をつきながら打つ。
『今、富山にいるから無理』
一旦スマートフォンを机に置き、服を着替えた。それが終わって、また覗いてみると、
『どうして富山に?』
と質問された。
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