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ピアノの音色
「それでは、今度の音楽会で、伴奏をする人を決めまーす!やってみたい人は、遠慮なく手を挙げてください」
また、
「…」
教室がしんと静まり返る。
見なくたってわかる。視線が、この私に向けられていることくらい。
「うーん、じゃ…」
「…はい」
委員長の西村さんの声をさえぎって、私は小さく手を挙げた。
周りの空気が、安堵のため息をしたようにふっと緩まる。西村さんも、溢れんばかりの笑顔で言った。
「じゃあ、伴奏は宮沢さんで決まりましたー!」
みんながザワザワと、さっそく次の話題について話し始める。
この結末が初めから決められていたみたいに、物事は淡々と進んだ。西村さんも、この結末は計算の範囲内だったようだ。彼女の副委員長との話題は、もうとっくに他の指揮者と伴奏者、それから歌う人たちの配置などに移っているのだろう。こんなことに、時間をかけてはいられないから。
「じゃあ今度は、ソプラノパートとアルトパートを歌う人、その他の演奏者、指揮者を…」
頭がぼうっとして、西村さんの声が遠のいていった。
私は自分の役目が終わったことを悟り、ふっと窓に目をやる。そこには、夏の入道雲の、頭の方が少し削れたような雲が浮いていた。トンボがすぐそばの窓を飛んでゆく。
やっぱり、窓際の席はいい。暇なとき、こうして好きな時に、いつでもいくらでも外を眺めていられる。
いいなあ。雲は、何にも考えずただそこにいて、雨や雪を降らせたり、四季の景色を形作る。
何でもないようで、なんでもなくない。
そういうのって、羨ましい。
夏が終わる。
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