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夜、時々クジラ
三日月がまぶしいくらいに輝き、星はそのそばで控えめにチカチカと瞬き、涼しくて乾いた風が吹く夜。
「んー、お使いは…牛乳と、卵と、サラダチキン、…カット野菜、か」
スマホを見ながら、とある少女が夜の闇の中を歩いていた。
オォ_____…。
「ん?今、何か、聞こえた?…ま、いっか」
オォ_____…。
「え?やっぱり聞…」
スマホから目を離し、顔を上げた瞬間、少女は動きを止め、息を飲んだ。
少女の目の前には、一頭のクジラが泳いでいた。水もないこの空間で、まるでここが海の中であるかのように。
「へ…あ…」
少女は、へたりと座り込んだ。クジラは、まだ目の前で泳いでいる。
「ん…んん?」
少女は、目を擦り、頬を赤くなるまでつねった。これは夢だと、そう信じて。
「う…」
クジラは、まだ目の前を浮遊していた。
クジラは、少女がその悲鳴を上げるよりも早かった。
オォ_____…。
「誰かっ…」
その少女の姿は瞬く間に消え、かわりに小さなカクレクマノミが一匹、クジラとともに地面から1mくらいのところで泳いでいた。
クジラは再び、交差点をゆっくりと右に向かって泳いでいった。小さなカクレクマノミも、ちょろちょろと泳いでそのあとを追っていった。
辺りは何事もなかったかのように、三日月がまぶしいくらいに輝き、星はそのそばで控えめにチカチカと瞬き、涼しくて乾いた風が吹いていた。
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