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小さな海とクジラの歌
「ねえ…また人が消えたんだってさ」
「怖いよねえ…何なんだろ」
「うちらも気をつけないとだね」
「何かわかんないのに気をつけようないでしょ」
「西村さんのお姉さんに続いて、舞美まで…」
「舞美…」
「目撃情報とかないのかな」
「それが、まだピッタリくるものがないらしいよ」
教室が、あることないことさまざまな噂で溢れかえっている。
そこに、息を切らしながら走ってきたクラスメイトがいた。
「長崎さん…遅いじゃないの、何してたの。いつもは8時ぴったりに来るのに」
「ご、ごめんなさい先生…でも今はそれどころじゃなくて!」
「どうしたの?」
「ラが…」
「え?」
「クジラが…歩道橋の上に浮いてた」
長崎さんが、うつむきながら搾り出すような声で言った。
「何、言ってるの。長崎さん」
先生はありえないものを見るような目で長崎さんを見る。
みんなが、ありえない話にざわついた。
「クジラが遊歩道の上に浮いてた??」
「どう言うこと?」
「ま、まさか舞美も…!?」
「そ、そんなバカな」
長崎さんが涙ぐみながら言った。
「でも、本当なんです。今、それから全速力で逃げてきたところで」
「それが、遅刻の理由なの?」
「はい」
「そ、そう…クジラね…とにかく、体調が優れなかったら、いつでも先生に言って、保健室に行くのよ」
「はい…」
先生は、朝の会を始めるように日直の人に言った。
教室はまだ、ざわついていた。
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