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 初めて、隼斗が泣くんじゃないかと思った。でも、そうはならず私の左手の薬指に指輪をつけてくれた。  シンプルだけれど、ダイヤを支える五本の爪のせいか桜にも見えるリングだった。私の薬指にぴったりと嵌まったリングは、ここが居場所だと言うようにすっかりなじんで見えた。 「…きれい」 「似合うと思ったんだ」 「どうしてサイズがわかったの?」 「さおりが寝てるときに糸を巻いて測ったから。結構苦労した」  抱きあった後、眠ってしまう私の習慣が効を奏したと隼斗は笑っていた。  それはちょっと恥ずかしいけど、安心しきって隼斗のそばで眠れることも、クールだと言われる彼が、私の前では屈託なく笑うことも、全部幸せだと思った。 「今日は、最初からこれを渡すつもりで連れてきてくれたの?」  真っ赤にした顔を右手で覆うようにして、隼斗は言った。 「…違う」   「だって、指輪…」 「指輪を買ったのは、年末なんだ」  ちょっと訳がわからなくなった。 「プロポーズのチャンスをいつも狙ってた。さおりと会うときはいつでも渡せるように。でもさ…」  なんとなくわかってしまった。最近お互いに仕事が忙しくて、会うのはどちらかの部屋。食事以外の時間は、ほとんどベッドで過ごしていた気がする。もしかしたら、そんな状況でプロポーズするのを避けたかったのかも。  また、隼斗の可愛らしい一面を知って嬉しくなってしまった。 「嬉しいよ。隼斗」  私と隼斗の身長差では、どうしても見上げる姿勢になる。指輪を付けた左手を隼斗の顔の前にかざして見せて、微笑んだ。 「…帰るか」 「頂上に行かないの?」 「…行きたい?」 「ここまで来たら行きたいよ。ほら、もう見えてるじゃない」 「あと1時間近くかかるよ?下りるのにも時間はかかるし」 「おにぎりは頂上で食べたいじゃない?」 「・・・分かったよ。行こうか」 「あ、指輪はつけたままでいい?もしかして、無くしそうで心配させた?」 「・・・その心配は、してない」  
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