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歩き出せば、景色を眺めるのも前後に並ぶ二人の足音が自然に揃うのも全部楽しくて、そんな私を振り返って見る隼斗も笑っていた。頂上で食べるおにぎりも、美味しかった。
朝早く家を出たから、山を下りてもまだ2時過ぎだった。私の家よりも乗り換えの駅から近い隼斗の家に向かうことになった。夕食は簡単に済ませられるように、スーパーでお互い好きなお総菜を選んで買って帰った。
隼斗の思惑に気付いたのは。帰り着いてから。
部屋のドアを開ける時に話し掛けようとした私は、腕をひかれて隼斗に抱きすくめられた。
「俺が贈った指輪をつけたさおりを、すぐにでも抱きしめたかったのに、頂上目指したいって言うし。ま、結果的には登って良かったんだけど、我慢するのきつかった」
返事をする前に口付けられた。さんざん貪られるようなキスの後、このまま終わる様子のない隼斗に尋ねた。
「…疲れてないの?」
「疲れてないことはないけど、そんなの平気」
リュックを下ろされ、上着に手をかけられてちょっと焦った。
「待って。シャワー浴びたい」
「うーーー」
唸った隼斗は、今度は溜め息をついて言った。
「待ってるのは無理。一緒に行く。それ以外選択の余地無いけど我慢して」
お風呂でも散々触れられ、隼斗の香りのするベッドまで抱きかかえられて連れて行かれた。指輪をつけた薬指に何度もキスをする隼斗に、私も愛しさが溢れた。
我慢できなかったと口にしたけれど、触れる手も体を繋げるときも、いつだって隼斗は優しかった。
ずっと、そんな感じだったのにな。
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