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「さおりさん、今年の忘年会は参加しますよね?」
葛城君と二人で東京郊外の外回りに出かけたとき、社用車を運転しながら彼が尋ねてきた。仕事の上で、彼と二人は嫌だなんて言ってはいられない。
「あ・・・ごめんなさい。たぶん行けないと思う」
「今年も、飲み会には一度も参加してないじゃないですか。・・・俺、楽しみにしてたのに」
小さな声で付け加えられた言葉は聞こえなかったことにした。
「主人の会社の忘年会と同じ日だったの。だから、私は行かないことにした」
「旦那さんは参加するのに、さおりさんは参加できないってそれ、旦那さんの思惑ですか?」
声の調子は明らかに隼斗を責めているように感じて、少しばかり苛立った。
「違う。私がそうしたいの。仕事以外で息子を置いて出掛けるのが、私は嫌なだけ。こうするべきだって誰かに言われて、私が素直にそうですかっていうタイプじゃないのは知ってるでしょう?家族に対しても同じなの」
いつもの調子で話したら、葛城君はなぜかしゅんとしてしまった。
「はい。そうですね。・・・残念ですけど。じゃあ、都合の良いときに食事でも、行きませんか?今年のご恩は今年のうちにお返しさせてください」
「今日、あと2件回った後のコーヒーなら連れて行ってあげる」
「そうじゃなくて・・・!」
「葛城君・・・今は仕事中よ。それに」
言葉を挟ませないように続けていった。
「私は仕事以外で、主人以外の男性と二人きりで出掛けるのは嫌なの。主人に誤解されるようなことは絶対にしない。」
「どうしても、・・・ダメなんですか」
「当然。私が私の意志で守りたいことなの」
葛城君は次の目的地まで口を利かなかった。ここでフォローをするのは優しさじゃない。だから私も黙っていることにした。
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