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02
大学生の時付き合っていた人は、実家の家業を継ぐために地方に戻ることを決めた。
知らない場所で彼と生きることを選べなかった私は、別れを決めた。
会えない期間の先にある未来を思い描けなかった私。遠距離恋愛は、曖昧な態度で答えを先伸ばしにするだけになると思ったから。付き合いは長かったから、悩まなかったわけじゃない。でも、小さな蟠りが胸の中にうっすら積もっていたことが、後押しした。
未来を望めないから、すぐにでも別れた方が良いと告げた。けれど、その人は卒業までは今まで通りでいたいと言った。
「好きだから」
その言葉を信じた。でも、会うたびにぎこちなく、歪になる私達の関係。
本当に、いろんな出来事があって、お互い傷付いた。
最終的に第三者が絡むと、賢くプライドの高い彼は冷静に別れを選んだ。終わりは悲しいくらいあっけなかった。4年近く、一緒にいたのに。
あんなに好きだと思ったのに。
別れたあとも、彼の存在に怯えていた私はすぐにアパートを引き払った。大切なものは実家に送り、必要最小限のものだけもって、親友の住まいに居候して部屋探しをした。結局、私を心配してくれた親友の咲世に、卒業までの数ヶ月ルームシェアをさせて貰った。
私は、冷静なあの人が見境がなくなるくらいひどく傷付けてしまったんだと思う。でも、私も深く傷ついた。
そんな私のそばにいてくれたのが、親しい友人達だった。親友には私と彼の間のことを伝えていたから、いざとなったら腕力も必要だと、余計な口を利かない信用のおける男子を頼った。隼斗はいつの間にか、いつもいるメンバーの一人になっていた。何も聞かず、あの人に関わることは何も言わなかった。
静岡の実家で暮らすことになった咲世も含め、友人達はそれぞれ地元で就職が決まっていたから、卒業後は以前ほど会えなくなってしまった。けれど、隼斗は都内で就職したから、働いてからも会った。
卒業してから変わったのは、二人きりが増えたこと。
週末、いつもより少しだけ早く会社を出る私は、同期の亜矢や百合に冷やかされた。
「そんなんじゃないよ。卒業して近くにいるのが、たまたま私だけだったから」
「ふーん。私達と飲んでもその後迎えに来るじゃん?」
「たまたまだよ?近くにいたとかさ。だいたい、そんなことが二回あっただけじゃない」
「二回あれば十分」
百合が言うには、私の姿を認めた瞬間表情が変わったそうだ。冷たいくらいの表情が、にこやかな笑顔に変わった。あれは恋する表情だ、なんて言ってたっけ。
今の隼斗は、どうなんだろ?
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