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 隼斗の表情はあまりにも真剣で、私は逃げ出したい気持ちになった。  やっと気持ちを立て直したのに、支えてくれた大切な仲間を傷つけたり失ったりしたくはない。そんなことがあったら、今度こそ立ち直れない。 「真面目な顔して何言ってるの?」  口を開こうとした隼斗の前から、私はそう言ってお手洗いにでも逃げようかと立ち上がった。  この居心地のよい関係を、崩したくはなかったから。  友達なら、ずっと一緒にいられるじゃない。疎遠になることはあっても、また何度でも関係を繋ぐことはできる。恋愛なんて、一定期間特別になる代わりに、いつか別れの時がくるじゃない。  私とあの人はそうだった。私は別れを選んだけれど、彼だって私に相談することなく実家に帰ることを決めたんだ。  席を離れようと立ち上がった私の腕を、隼斗が掴んだ。痛くはないけど、振り払うことはできそうにない。 「話を聞いてほしい。聞いてくれるだけでいいから」  頷いてもう一度席に着いた。仕事帰りに食事をしようと誘われた、カジュアルなレストラン。適度におしゃれで、すごく美味しいのに高級なわけじゃない。そんな居心地の良いお店にいつも連れて来てくれた。  支払いは交互に、ご馳走しあう。私が払うときはなぜかラーメン屋さんとか、カレー屋さんばかり。  その日はスペインバルだった。  BGMのフラメンコが、なぜか気持ちをざわざわさせたのをつい昨日のことみたいに思い出した。
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