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「俺と過ごす時間が無くなったら、さおりはどうする?何するの?」  とっさに返事ができなかった。  金曜の仕事帰りに会って、食べて飲んで。それぞれ家に帰って。月に何度かは、土曜の夕方頃また隼斗から連絡がある。映画とか、観戦とか。ゲーセンや買い物の手伝いとか。色々な理由で会うことになる。  日曜日は一人でひたすら家でのんびりするけれど、夜電話で長話をすることもある。平日はお互いそれどころじゃないけれど、私の週末はほとんど隼斗で埋め尽くされてる。  時々会う咲世や大学時代の友達は、隼斗のことを話題には出すけど私の顔を見てただにやにや笑ってるだけ。でも、別れ際には急に真面目な顔して「さおりは幸せになるんだよ」って言ってたな。  今はほかにしたいことが思い浮かばない。仕事以外の時間は、大抵隼斗と一緒にいた。その時間を除いたら、これといった趣味もない、つまらない人間なのかもしれない。“スーパーボール“はもう過去の話だ。 「俺と過ごすの、楽だし楽しいだろう?」  私は素直に頷いた。 「俺もそうなんだ。それに、さおりがそう思ってくれるのが伝わってくるから、嬉しくなるんだ」  自分では気付いてなかったけど、そんなふうに隼斗の目には映るんだ。それはなんだか気恥ずかしいけれど、胸が温かくなるような気がした。  そんな私を見て、優しく微笑む彼の目を見て思い出した。  隼斗が私を名前で呼び、私が桐島くんから隼斗と呼び捨てするようになったのは、二人でゲーセンに行ってからだ。兄と弟の影響でやたらと腕を磨いていた私を相手に、ムキになった彼が賭けをした。 「次の対戦で俺が勝ったら、お互い名前呼びな?」 「隼斗様って呼ぼうか?私、負けないけど?」 「今日だけじゃない。これからずっとだから、隼斗でいいよ」  目を伏せて言う彼が、なんだか可愛らしく思えた。  お互いコインを投入した。   加減はしてないし、動揺もしなかったはず。私はその後、初めてそのゲームで対戦相手に負けた。 「今日から隼斗って呼べよ?なあ、さお…り」  自分から言ったくせに、辿々しく私の名を呼ぶ彼がやっぱり可愛らしく思えたんだ。
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