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――1945年、8月。
奥深い山中に位置する、村の片隅に密かに作られた、「実験室」では。
7月末あたりから、「どうやら、『危ない』らしい」という噂が囁かれていた。
戦局がすでに行き詰っていることは、軍隊の内部にいる者なら誰の目にも明らかであり。情報統制により公には出来ないものの、軍の指揮下にある実験室には、敗戦が近いという「確かな情報」が寄せられていた。それは「もしもの時」には、すぐに施設を閉鎖し情報を隠蔽する必要があったからでもあった。
それゆえに、8月15日の正午を迎えるにあたり、実験室の面々はすぐさま「行動」に移った。これまでに生体実験などで得られたデータは、他では得難い貴重なものではあるが、その貴重さゆえに早急に「処分」しなければならない。
そして実験室の面々にとって一番の「懸案事項」が、「残った子供たちをどうするか」だった。実験によりすでに「処分」した子供もいるが、まだ10名近い子供が「生き残っている」。このまま「逃がす」わけにはいかないし、薬物などで眠らせたとしても、焼却炉で1人ずつ燃やすのは時間がかかり過ぎる。地下室の科学者たちは、外部と密かに連絡を取り。ここでの実態を隠蔽したいと考えている関係者の協力を得て、子供たちを「トラックで迎えに来る」という解決策を得た。
もちろんそのトラックの行き先は、子供たちをどこかに引き取らせるのではなく、どことも知れぬ「処分場」である。科学者たちも「関係者」たちも、自分の身を守るためには仕方ないと、非情な決断を受け入れていた。
しかし、彼らにとって「誤算」だったのは。
彼らが集めていたのが、「特殊能力に秀でた子供たち」であったことだった。
子供たちは地下の「遊び場」で、自分たちの仲間が1人ずつ、実験室に行ったまま「帰って来ない」ことに気付き始めた。遊び場から先、「狭い廊下の奥」へ行くことは禁じられ、いつも監視の目が光っている。しかし、「そこ」に何かあるのは間違いない。
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