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『そう……両親と妹の居場所っていうか、一応は「無事でいる」ことがわかって良かったけど。でも、あなたたちはその異世界が、「理想郷」みたいに言ってるけど。あの時まだ1歳半だった、あたしの妹は。その「時に縛られない」異世界で、今も、そしてこれから先も。永遠に「1歳半のまま」ってことよね……?』
それを聞いて、頭の中の意識はまた少し、黙り込んだ。それから意を決したように、再び語り始めた。
【そう……だね。その通りだよ。妹さんは、ずっと「赤ちゃんのまま」で生き続けてる……】
そこで瑠奈はすかさず、「意識」に思いのたけをぶちまけた。
『もちろん家族が異世界にいっちゃったのは、あたしのせいでもあるんだろうけど。でもあたしは、そんなことになるとは思わなかったんだもん。どちらかというと、何も知らせずにいきなり「裂け目」を作った、あなたたちのせいでしょ?
妹は1歳半のままだから、あなたの言った、差別や偏見や、この先の人生で味わうかもしれない、色んな苦労を知らずに済むかもしれないけど。でもその代わりに、成長してから経験するはずだった色んな楽しいこと、幸せな気持ち、胸が熱くなるような思い。そういったものを、全部知らずに生きていくってことじゃない。
それから、あんな死に方をした、榊さんやレイカさん、そして藍子さん。あの人たちが、なんであんな風に死ななきゃならないの? 榊さんもレイカさんも、虐待されてたあなたたちを「助けたい」って思ってたのよ? それを、あんな酷い殺し方をして……そんなの、あんまりじゃない! あなたたちが、「理想郷」にいる自分たちのことを、たくさんの人に知られたくないからでしょうけど。そんなのほんとに、「理想郷」って言えるの……?!』
そこで意識は、先ほどよりも更に長い、「沈黙」に入った。それが、意識が頭の中からいなくなったわけではなく。自分に対し、何を言おうか迷っている沈黙なのだと、瑠奈は十分に理解していた。
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