ゴースト・リアリティー

２７

　その、血を吐き出したのが合図だったかのように。
　藍子の捻じ曲げられていた体が、「びゅるるるるるるんっ！！」と、急激な勢いで「元に戻った」。

　しかし、捻じ曲がっていたものが、元の状態に戻ったとしても。一度捻じ曲げられた体が、「回復」するわけではなかった。骨や内臓ごと強引に捻じ曲げられ、それをもう一度強引に「戻された」藍子の体は、非情過ぎるその酷使に耐え切れず。仰向けのまま、胸部と腹部を、「ばんっ！！」と破裂させ。へし折れた肋骨の間から、引き千切られた内臓や肉片が、地下室の床や壁へと飛び散った。

　先ほど、確かに自分の名前を呼ぼうとしていた、誰よりも信頼する親友のような部下が。今は体を破裂させ、口から血を吐いて「絶命した」のだとわかり。谷津崎は地下室の天井を見上げ、「ちっくしょおおおおおおおおおお！！！」と叫んだ。

「ちくしょう、ちくしょうおおおお！！　なんで、なんでこんなことになったんだよおおおおお！！！」

　ひとしきり叫んだあと、谷津崎はすぐ後ろにいた瑠奈を、「きっ！」と睨みつけた。

「なんでだよ、どうしてだよ神月！　なんでお前の『力』は、何も感じなかったんだよ！！！」

　瑠奈はそれを問われるまでもなく、いや、瑠奈自身が一番、「なぜなのよ！！」と叫びたかった。……なんでよ、どうしてよ？　一番大事なとこで、なんで何も出来ないの、何も感じないのよ！　おかしいじゃない……！！

　そこで瑠奈は、「はっ」と気付いた。
　そうだ、さっき榊さんも言ってた。『まさか、そんなことが』って……！

　瑠奈は後ろを振り向き、焼却炉の前に力なく横たわっている、首を失くした榊の遺体を見つめた。

　……榊さんも、何か「感じた」んだ。あたしがずっと感じていた「違和感」を。その、もっと「強いもの」を……！