SCENE1 世界公園《ワールドパーク》上空

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SCENE1 世界公園《ワールドパーク》上空

 「ここが世界公園(ワールドパーク)か。夜景はきれいだが、この光の数以上に犯罪者がはびこっている場所だね?」  窓から地上を見下ろしながら、トムソン・シェイナードが言った。一応スタンダードだが、カナダのケベック州出身のため端々にフランス訛りが感じられる英語だ。  「確かにこの場所には、各国の裏社会から流れてきたマフィアの支部が複数あります。そういう組織に属さない盗賊や暗殺者、知能犯、詐欺師もいるし、どこかから逃げてきた国際的指名手配犯も潜んでいる。でも、単に貧困なだけだったり、難民となり受け入れてくれる国がないためにここにたどり着いた人々もいます。政治的理由で祖国にいられなくなって、仕方なく居を構えている家族だってある。混沌という言葉が一番ふさわしい街ですね」  マサヤが流暢な英語で説明した。  「ふむ」と応えて再度窓から下を眺めるトムソン。その表情は真剣そうだが、同時に興味津々という色が瞳に灯ってもいた。  2人はシートに並んで座っている。他に人はいない。有人ドローン、あるいは小型ヘリとでも呼べる機体だった。  あらかじめ基本的な航路はプログラミングされており、トムソンが無線で指示をすれば離れたところから彼の部下が遠隔操作することも可能だ。あるいは、ドローンに搭載されているAIへ直接指示を出し、速度や高度を変えることもできる。  現在の高度は150メートルを超えていた。超高層ビルの建ち並ぶ「みなとみらい」とは違い、障害となる建物はない。  「日本(ジャパン)は昔、治安の良さが世界でもトップクラスだと言われていた。何が間違ってこんな一帯ができてしまったのか、歴代の指導者達を問い詰めたいものだね」  トムソンが肩をすくめながら言った。仕草の一つ一つが洗練されているような気がして、マサヤは苦笑する。
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