SCENE1 世界公園《ワールドパーク》上空

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 世界中の環境保護や平和維持活動団体の理事に名を連ねるこの男性は、現在65歳。だが、がっちりとした身体と背筋の伸びたその姿からは、老いは全く感じられない。グローバルに展開する服飾メーカー「ルリ・レモン」の創業者で、事業からは引退しているが世界中の財界に現在でも影響力を持っている。  母国カナダではその発言は政権の行方をも左右すると言われていた。また、貧困や環境問題に大きな興味を持ち、国際的な活動団体に寄付を行うだけでなく、自ら解決に取り組もうとする姿勢を持っている。危険地帯への視察等も頻繁に行っていた。  今回も、横浜(ヨコハマ)にある世界公園(ワールドパーク)について知識を深め、改善のためにはどうすれば良いか検討するために来日した。そして今日、上空から実際にその場所を確認している。  「基本的なことから訊きたいのだが、いいかい?」  トムソンが窓の外に目を向けたまま声をかけてきた。マサヤは「もちろん」と応える。  「世界公園(ワールドパーク)と華々しい名前がつけられているが、その範囲はどこからどこまでなのかな?」  タブレットも取り出し、それと窓の外を見比べながらトムソンが言った。モニターにはこの辺りの地図アプリが映る。  「しっかりと線引きがしてあるわけじゃないです。大まかに言うと、西の工業地帯の外れからみなとみらい地区手前くらいまで、ですね。昔『山下公園』と呼ばれた辺りは微妙な地域で、混在している感じです。昼間は普通の街ですが夜は危険になる。公園の名残がある大きな噴水を中心とした一帯がそうですね」  説明しながら、半年ほど前にあの噴水でラズに告白し、無理矢理キスしたことを思い出す。  初めて一緒に行動し危機を乗り越えた後のことだった。悪ぶっている彼女の中にある優しさや悲しみを知り、愛おしさでいっぱいになったからだ。あれから、同僚になるとともに一応恋人としてのつきあいも続いている。  そういえば、彼女、今日はインチキ宗教団体を潰しに行くって言ってたけど、うまくいったかな?  ふとラズの顔が脳裏に浮かぶ。しかし、大事な勤務中であることを思い出し振り払った。トムソンに向き直る。
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