プロローグ

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 「このような地域は世界中にあり、そして増えている。もはや人としての生活を望めるような場所は狭まりつつある。遠くないうちに、間違いなく現在の世界構造は崩壊するだろう」  マットの弁舌の熱が高まっていく。  信者達は息を呑み、朧気な目で見ていた。涙を流す者もいる。すでに意識は正常とは言えない。催眠状態と言っていいかもしれない。実際、彼らの集まる場所に成分が漂うように、麻薬的薬物のエキスが込められた煙が流れている。マットとその一味が荒っぽい洗脳のために仕掛けたものだった。  信者として集まった者達を見下ろすサブマシンガンの男達。従わない者が現れたら即座に抹殺するために、彼らの目は鋭く光っている。  「だからこそ、皆決起するのだっ! 世界が滅ぶならそれでもいい。しかし、我々選ばれた者は生き残り、新たな世界で楽園を築く。そのためには汚れのない子供達が必要だ。どこからでもいい、子供をこの場へ連れてくるのだ。美しい未来への使者となる子供達、それが10人、100人と集まれば、新たな世界のための(いしずえ)となるだろう」  マットが一段と大きく声を響かせる。  信者達が頭を垂れ従う意思表示をした。  サブマシンガンの男達が満足そうにその光景を見下ろす。  だが……。  「バカ言ってんじゃねえよ、このくそインチキ野郎っ!」  あざ笑うかのような女性の声が聞こえてきた。  その場の全員が、一斉に声の方を見る。  バーンと音がして、後部扉が勢いよく開かれた。  小柄ながら堂々と、そしてふてぶてしく現れた1人の女――履き崩してヨレヨレのデニムにTシャツ、腰には銃の納められたホルスター。若く、ヘタをするとまだ未成年にさえ見えた。荒くれた姿と裏腹にその容貌は美しく、ポニーテールが揺れる様は可愛らしくさえ思える。  「きさま、ラズっ!」  マットが忌々しそうな声をあげた。  サブマシンガンの男達が慌ててそれを構えようとする。だが、ラズと呼ばれた女性が一瞬で銃を抜くと動けなくなった。皆、彼女の腕前を知っているのだ。
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