SCENE6 世界公園《ワールドパーク》の港

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 「楽しみにしてるよ、いちごちゃん」  フッと笑う柳。  「そ、その呼び方はやめろと言ったはずだっ!」  険しい形相になり、銃を抜くラズ。ダイゴが必死に止めた。  「よ、よせって、ラズ。おいダンナ、あんまり相棒を刺激しないでくれよ」  ラズは幼い頃に某国のマフィアに売られ、窃盗から殺人まで、あらゆる犯罪の技術や戦闘術を仕込まれた。名前などなく数字で呼ばれ、マフィアの武器として育てられたのだ。  組織壊滅後に警察に保護されある養護施設に入所し、そこで初めてつけられた名前が「いちご」だった。同年代で同様に名前さえもらえない境遇の中にいた女の子2人と仲良くなったが、彼女たちは「みかん」と「りんご」だ。  柳との因縁はその頃にできた。  養護施設は世界公園(ワールドパーク)と普通の地域の境にあったが、運営が立ちゆかなくなり閉園することになった。多額の負債を抱えていたのだ。そのごたごたの中、仲良しの「みかん」と「りんご」、そして世話になった生活指導員が、チンピラ達3人に乱暴された。  生活指導員は2人を守れなかったのを苦にして自殺してしまった。「みかん」と「りんご」の行方は、今はもうわからない。  当時「いちご」という名だったラズは怒り、たどっていけばチンピラ達の親玉にあたる柳を殺そうとした。だが、彼の圧倒的強さにより叩きのめされた。  柳はカタギの人間には手を出さない主義だったので、事実を知って怒り、チンピラ3人を独自のやり方で処刑したが、それでもラズは彼を許せなかった。  渡部の特別(そして秘密裏)の処置で警察に入った彼女は、世界公園(ワールドパーク)の悪党を皆殺しにするのを目標としているが、最終ターゲットは未だに柳だ。  施設がなくなった時に「いちご」という名は封印した。今はラズベリーからとった「ラズ」が私の名前だ……。  当時のことを思い出し、苦々しい表情で柳を睨み続けるラズ。  「クールになろうぜ、相棒」  ダイゴに宥められてラズが柳から視線を外した時、海上に一隻の小型船が姿を現した。静かに接岸する。そして1人の男が降りてきた。  「お待たせしました。なんとか手配しましたよ」  世界公園(ワールドパーク)であらゆる物資を注文に応じて用意する「手配屋」のコージという男だ。ラズとダイゴには多大な借りがあるため、何でも従う。  彼は2人の他に柳もいたため一瞬脅えたような顔になったが、気を取り直して説明を続ける。
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