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「潜水具一式も中に揃えてあります。一応jammer(最新レーダー無力化装置)も装備してあるけど、マンバのとこにはそういうのに精通した手下がいるっていう噂があるから、どこまで有効かわかりませんよ」
「まあ、それプラス柳の旦那が奴らの気をひいてくれる手はずになっているから、なんとかなるだろ」
ダイゴが気楽そうに言った。
「じゃあ、さっさとおっぱじめようぜ。時間がない」
ラズが小型船へと向かおうとするが「待ちな」と声がかかり止まる。
振り返ると、柳の隣にいつの間にか1人の老婆が立っていた。皺にまみれた顔からは歴史が感じられたものの、姿勢はしっかりしている。長身の柳に比べると頭一つ低い背だが、それでも女性としては大きな方だろう。黒地に赤い幾何学模様のマントを羽織っていた。
молитваという、ロシアから流れてきた占術師だ。世界公園の中で海側と陸地側から程よく離れた中央付近には貧しいながらも普通に暮らす人々がいて、様々な生活品を売る通称商店街があった。そこで占いの館をやっている。不思議とよく当たるという評判だが、占う相手を選び、つまらなそうな依頼者の場合は適当に応えるという。
「なんだ、ババア、まだ生きてやがったのか?」
ダイゴが吐き捨てるように言った。
「おまえはまだ人間の言葉が不自由なようだね、ゴリラ」
ぐっ! と怒りをかみ殺したような表情になるダイゴ。彼の腕を「まあまあ」とでも言うように叩き、ラズが前に出る。
「なんの用だい、婆さん。ちょっと立て込んでるんだ。今週の占いランキングならまた今度にしてくれ」
「忙しいのはわかってるよ。あの色男が金持ちと一緒に掴まったんだろ、あっちに」
молитваは顎で地獄遊園地の方を示しながら言った。
「な、なんで知ってるんだ、そんなこと?」
ラズもダイゴも息を呑んだ。柳はコージをチラリと見る。彼が漏らしたと疑ったのだろう。
「お、俺は何も言ってないっす」
慌てて何度も首と手を振るコージ。
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