プロローグ

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 教会というより、廃墟と呼んだ方がいいような建物だった。  大きさだけは見事で、以前は立派な宗派の優れた伝道師に使われ、多くの信者が集まっていたのだろうと思われる。  もはや見る影もない……。  だが、そんな場所に惹かれる者達も、汚れゆく街、混沌とした時代にはいる。今ここは、暗黒宗教集団の巣窟と化していた。  「20世紀末には、終末思想が流行したと言われています」  大きな十字架の下、前方ステージに立つ大柄な男が言った。黒い司祭服が照明の光を受けて映えている。現在この場の最高指導者である、マット・タカザワだ。  彼の前には複数の信者達。老若男女様々いるが、皆どこか目が虚ろだ。  そして、信者達を上から見下ろし取り囲むように、男達が立っていた。20人近くいるだろう。祭服であるが、全員サブマシンガンを手にしており、とても信心深いとは思えない。  「特に、1999年に世界が滅ぶという、ノストラダムスの大予言の影響は大きかった」マットが厳かに続けた。「もっとも、その予言は大きく外れた。なぜなら、ノストラダムスは100年時代を間違えたからです。つまり、もうすぐ本当の人類滅亡の日が来る!」  彼が大きく手を広げると、信者達から「おお……」と感嘆の声があがる。  「21世紀が進むにつれ、世界中で貧富の差はどんどん大きくなっていった。そして残念ながら、富める者はほんの一握りで貧する者は増える一方だ。貧しければ心も荒み犯罪も多発する。見なさい、この教会を境に向こう側は、世界でも指折りの腐敗と荒廃の都市だっ!」  マットが手を伸ばすと、そこに窓があり、夜の闇の中に怪しい灯がともる街並みが見えた。  20××年――。  横浜(ヨコハマ)の一部は世界に名だたるスラム街と化し、貧困と悪徳が渦巻く無法地帯となっていた。世界中の犯罪組織の支部がひしめき合い、そこを起点に様々な犯罪を企図する。警察もおいそれと手を出すことができない特殊な一帯だ。  この教会も、マットが率いる新興宗教団体も、その特殊な地域の一部に属している。そして、地理的特性――腐敗地帯と富裕層が住む「みなとみらい地区」を中心とした地域との境にある――を活かし、どちらからも信者を……いや、被洗脳者を増やしていた。
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