街でいちばん大きな屋敷に

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 数年ぶりに訪れた屋敷は、暗かった。  もっともそれは使用人のための部屋だからで、主人や奥方の部屋は日当たりも充分なのだろう。家令は、僕が持参した紹介状に目を通すと、明日から働くようにと告げた。 「今日はいいのですか?」  悠長なことを言うものだ。さすが街いちばんの屋敷ともなれば、使用人の数にも余裕があるのだろうか。  家令は、新人メイドの質問に言葉を濁した。 「今日は、少し複雑なので」  彼は新たにメイドを呼び、僕の教育を申しつけた。  先輩メイドに屋敷を案内されながら、新米に見せたくない複雑なこととはなんだろう、と考える。  前に勤めた屋敷で、この屋敷に関する噂は仕入れていた。屋敷の主人には、本妻以外にも囲っている女が複数いる。ありふれた話ではある。  早足に屋敷の中を巡りながら、よくここまでやってきたな、と感慨を抱いた。僕がメイド服を着て、行儀よく雑務をこなしているなんて。スカートだって穿いていられないような、やんちゃな子どもだったのに。  もっとも、そんな僕だから彼女と出会ったのだろうし──彼女と出会ったから、今の僕になった。  あとで、図書室に行かなくては。  探しているのは、あの日に見失った光。それを追い求める気持ちが、今の僕を形作っている。  それは七歳のときのことだ。  スカートを翻して歩きながら、僕はあのまぶしい季節のことを回想する。
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