納品書

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納品書

「では、こちらで以上となります」 「え?」 私は目の前に積まれた木箱の数に唖然としていた。 「あの、これ全部ですか?」 「?・・・はい」 「・・・」 「こちらが注文書になります」 運搬屋から注文書を受け取ると、確かにそこには『110』という数が記載されていた。 (あれ?一桁多いな・・・) 私は先頭の『1』が明らかに後から足されたものだと気づき、眉を顰めた。 「どうかされましたか?」 「いえ、その・・・うちは『10』と書いて出したつもりだったので、驚いてしまって・・・」 「え?」 そう言われた運搬屋のお兄ちゃんは、オロオロしていた。「そんなハズは・・・」と言って、混乱している。余計なことを言ってしまったかもしれない。 「あの・・・この間、猫が部屋に忍び込んで部屋の中を荒らされたんです・・・インク瓶もひっくり返されてしまっていたので・・・もしかしたら、その時に何か跡が付いてしまったのかもしれません。私が注文書を出す時に、よく確認しなかったミスです・・・すみません」 私がそう言うと、運搬屋のお兄ちゃんは明らかにホッとした表情をしていた。 「そうでしたか・・・」 「それで、ご相談なのですが、他の店に同じ商品を卸しているお店で、在庫を買い取っても構わない店がないか聞いて頂きたいんです。無理にとは言いませんが・・・」 「分かりました・・・他ならぬ、お得意様のエドワード様の頼みですからね。可能な限り、聞いてみますよ」 「ありがとうございます」 私が頭を下げると、運搬屋のお兄ちゃんは爽やかな笑みを残して去っていった。 ***** 一週間後。 木箱の数は、運搬屋のお兄ちゃんの協力もあって半分まで減ったが、もうこれ以上の数は見込めないと見て、木箱を倉庫の奥深くに片付けていた。このままお蔵入りになる可能性のほうが高かったが、捨てる訳にはいかなかった。 「あれ、じぃちゃん店番は?」 「エディにお客様だよ」 いつの間にか倉庫に来ていたじいちゃんに言われて店に戻った私は、初老の男性を見て一週間前のことを思い出していた。 「その節はどうも・・・」 「あなたでしたか・・・お探しの方は見つかりましたか?」 「いえ、それが・・・困った事になりまして・・・ご相談したいことがあるのですが、少々お話をよろしいでしょうか?」 「・・・え?」 私は嫌な予感がしつつも店の奥を見ると、じいちゃんが頷いているのが見えた。 「エディ、ここは大丈夫だから・・・」 「ありがとう。じいちゃん」 私は初老の男性を家の応接室まで案内すると、紅茶を淹れる為にキッチンへ戻ったのだった。 ***** 私が紅茶を淹れて応接室に戻ると、初老の男性は立ち上がり丁寧にお辞儀をした。 「ありがとうございます。どうぞ、お構いなく」 私は紅茶を淹れたカップをテーブルの上へ置くと、向かいのソファーへ座り紅茶を一口啜った。 「それで、その・・・お探しの方なのですが、組合長や他の組合の仲間にも聞いてみたのですが、私に似た人物を見たという者は誰もおりませんでした」 男性は首を横に振ると話し始めた。 「今日は、その事でお願いがあって参りました・・・どうか、殿下の代わりをしていただけないでしょうか?」 嫌な予感は的中し、私は座っていた椅子から思わず立ち上がっていた。
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