The Small Town in Europe

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「おいキミ。大丈夫か?」 子カラスを驚かせないように掛けておいた上着の上からそっと触れると、もぞっと動いた。 「今夜はうちに泊まっていきなよ」 古いケージがあるので、うちで羽を休ませてあげるつもりで、上着ごと優しく抱き上げる。 本当はそこまでしなくても、飛べなかったその子も、足で稼いで自己防衛しながら奴らに蹴られていたから、そのまま放っておいてもよかったのかもしれない。でも僕はエサをあげてみたかった。 帰り支度をして歩きながら、ほうぼう寄り道して、手ごろな太さの枝を探した。止まり木が必要だと思ってのことだが、片手が塞がった状態では埒が明かず、けっきょく後でノコギリを持って出直すことにした。 うちでは母と妹が同じような悲鳴を上げて、傷の手当をしようとしたが、子カラス優先の僕は、適当に顔を洗って済ませてしまった。 あの現場となった空が晴れ渡ったのは、3日後のこと。 僕は名残惜しい気持ちで、子カラスを自然に返した。 僕の腕から難なく飛び立つのを見送りながら、 「鳥はいいな。飛べて……」独りごちる。 母と妹がいるので、僕はあの土地に縛られた籠の鳥なんだと思った。 自由な鳥になれたらとつい思ってしまって、好きな所へ飛んでいく自分の姿を想像する。 羨ましくて、いつまでも空を見上げていた。 どこへ行きたい? その自問自答に、 僕のギフトが彼の国を囁いたが、鼻で笑ってかき消す。 「英語、勉強しよう」 せっかく入ることができた英語クラスだ。 いつか行けるなら、英語圏にしよう。 きっと、ガッポリ稼げる。 勉強嫌いだったが、英語だけは辞書を丸ごと暗記するレベルにまで勉強した。じっさいに僕の辞書は、ページをめくりすぎてヨレヨレで、本を閉じても膨れたままで、閉じた気がしないくらいだった。
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