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水曜日
「ミスター!! 僕、スズランの鉢植えを買ってきたんだけど、これってすぐに水をやったほうがいい? 今夜プレゼントするまでに枯れたりしないよね?」
「何じゃ、お前。子どものように興奮して」
「花屋のおばさん、英語わからないって言うから何も訊いてこられなかった。でもこれが最後の1個だったし、弱ってない? ミセス。ミセスも見て。葉っぱが1枚、ドライになってると思う」
ガーデニングが趣味だと言っていたマッミィコォ〜のために、今朝の僕は、今まで気にも留めていなかったコンサートホール脇の花屋へ行って、人生初、女性に贈る花を買った。
園芸知識ゼロの僕に天は味方をしてくれた。迷いもなく決められたのは、店頭ラックにぽつんと置かれていたスズラン。キレイなバラもたくさん売られていたが、彼女の理想の男性像、バラのマジシャンに対抗するには、このスズランしかない。
「オッホ、ロニー。わかっているか? お前のキューピットはこのオレだぞ」
「イエス、ヘーゾー親分。感謝しています」
彼が気持ち悪がる僕を逃がさないように肩を抱き込み、耳元でほざいてきた。寒気がするが、このでっぷりしたオジサンのおかげであるのは事実。そして、僕は彼女の理想に真っ向から挑んでみせる。
僕たちの横でミセスが土の乾き具合を指で調べて、霧吹きで軽く葉っぱと土を湿らせてくれた。
「これで夜まで大丈夫よ。あとはガールフレンドのお嬢さんにお任せしなさい」
「ミセス! マザー、アリガァト……」
僕は明後日に帰国する。
この滞在中に学べたのは、空手の精神を叩き直すことより、人との繋がりを大切にすることだった。
また夫妻に会いたいと思うし、そう思われたい。
心の拠り所である日本にいるあいだに、
僕はまず相手を受け入れて、その上で感謝ができるようになった気がする。
自分はこんな人間だったのか。不器用で、くすぐったくて。自然と笑ってしまっていた。
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