水曜日

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食卓にはオカサンの手作りと思われる料理がキレイな大皿にラップをかけられた状態で置かれている。 グラスを出してくれるオカサンと冷蔵庫から野菜を取り出している彼女がいて、 「先に食べててね。私これから豆腐サラダを作るから」 「いいよ。僕は待ってる」 「まずはビールで乾杯ね」 「お母さん、野沢菜をいただいたの」 ひと通り、ミセスの心遣いに対する感謝を伝えるやり取りがあった。 会話には英語と日本語が交じっていても、心地よく感じる時間だ。 「どっちが好き? こっちはクラッシックのオーケストラで、こっちは演歌」 食卓に座らされている僕の前に、オカサンがCDを2枚置いてジャケットの写真を指す。日本語での質問なのに、彼女の意図が僕にはわかる。 「コレ……」 タキシードでタクトを握るおじさんより、着物で笑いかけるおじさんを僕は指した。『エンカ』の意味は知らなくても、より日本的だからだ。 「♪♪♪〜〜♬」 イントロの竹笛の音が僕の心を惹きつけ、こぶしの効いた歌声が流れてきて、とたんに胸が熱くなった。どこかで聴いたようなメロディ。 昨日のオコノミヤーキの店もミスターの所もJポップがかかっていて、エンカをどこで聴いたか思いだせない。ミスターに至っては、子どもと親に英語と空手を教えている関係上、テレビ番組の多くも若者に合わせているようだった。 「♫あ〜なたにぃ~〜ああいぃたぁい〜〜」 曲と曲の合間に僕は耳に残っていたワンフレーズを口にした。思わずだった。 「お上手ねえ、あなたって素質があるわ。きっとウケるわよ、この顔で着物に袴でステージに立ったら」 「やだな、お母さん。見世物みたいなことを言わないでよ。さあ食べよう。カンタン豆腐サラダだけど、野菜と海藻がいっぱい入っててヘルシーでしょう? ロニー、食べて食べて」 彼女が僕の隣でモリモリと食べ始めた。昨日から思っているが彼女は大食いで、食べっぷりがいい。 オカサンがビールをさらに勧めてきたが、僕も彼女も一杯だけにした。 食後、彼女が自分の部屋のベランダで育てているハーブを僕に見せたいと誘ってきた。手にした盆の上には、大きいポットにカップが2つ、それにスズランの鉢植えだ。 「2階でお茶にしよう。こっち」
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