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Prologue take2
断片的ながら物心がつくのが早かった僕だが、ギフトにはもうひとつあって、尋常でないほど日本的なものに対する懐古的な思考がある。
4歳のころだ。
人生の根底を揺さぶられるような映像と遭遇した。
僕はあれを〝魂の手招き〟だと思っている。
元から親日家が多い国柄、サムライ映画は普通に鑑賞できていて、僕は魂丸ごとハマっていた。
そのときに貼り付いて観ていたものが――、
長い黒髪を垂らした女性。館の主の妻で、後ろ姿だった。
戦を前にした会議のシーン。
緊迫の場面も床に正座して行うだけで、どこか平和的に見えた。
そこに家来衆がさっと道を空け、着物と髪の毛をサラサラさせて登場すると、主人の前に歩み出て、優雅に座った。
そして、妻が夫に進言したのをキッカケに、家来も含めて皆がひとつにまとまっていくのだ。
その女優さんの
凛とした切れ長の目と静かな物腰が、僕が生まれた国の女性にはないような気がして、
ただ呆然と、ひたすら憧れた。
「マーマ。僕は将来、日本人と結婚したい」
「オウ・マイ・ベイビー。この街に日本人はいないんだよ」
それくらい、いくら幼くても言われなくても知っていた。
ヨーロッパの片すみの小さな街だったから。
遠く遠く、
夢のまた夢で、
叶うわけがない。
それ以上を口にすることができなくなった僕は、もう泣くしかなかった。
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