The Small Town in Europe

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「たかが入れ墨、親父もデカいの入れているだろう!」 僕のなんて、たったの1,2センチだ。 親父は、空手で強くなってきた僕を抑えつける口実がほしかっただけだ。 勝手をされたら沽券にかかわると、自分のほうが上だと酔いにも任せて、 僕に思い知らせるつもりでやったとしか思えなかった。 でも僕に限ったことでなく、顔を腫らしたままで学校へ来ている子どもたちが何人もいた。 あの時代、人々は表向きを取り繕っていただけで、現実に怯え備えていたのだ。 第二次世界大戦の再来。 恨みつらみの増幅。 貧困をお互いのせいにする。 親父のじーちゃんは他国から逃げて来た移民だった。そして、ばーちゃんと知り合って姓を変え、あの国でひっそり生きた。「異民族には気を許すな」が口ぐせだった。 小さかった僕には、その意味がわからなかった。 なにせ学校には三つの民族が入り混じっていたし、 僕たちの世代には関係のないことだとずっと考えていた。 でも大人たちは違う。 〝その日〟がじきに来るという予感があって、家庭内に不穏な空気を持ち込むまで、ストレスに晒されていた。 みんな知っていたことだ、僕たちはいつも貧乏だって。 男ならみんな、いっぺんは外国へ出て、出稼ぎしてこないと結婚して家庭を持つことができないのだと。 親父だって、30歳を過ぎてからの結婚だった。 本当は諸外国と肩を並べるなんて、夢のまた夢。 僕が生まれて祖国だと思っていた場所は、石造りが美しいだけで、実は西と東に挟まれた『ヨーロッパの火種』として、戦禍が絶えない運命の土地でしかなかった。
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