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「一対一だ」
「ほ〜う。チビにはハンデが必要だな?」
たしかに僕の身長は低いほう。
でも駆け足はクラスで一番早かったので、それまでチビだと言われたことはなかった。
「ひとりじゃ怖いのか、フン。お前には取り巻き連中も必要なのか?」
嫌味に対して僕は笑って返す。
「おぉい! オメエら、ぜってーに手ぇ出すんじゃねえぞっ」
主犯格が訛りのあるダミ声で子分に言いおく。
互いが本気になったところで、僕もその最中に「子カラスに手出しはなしだ」と一同に誓わせた。
そして、近くの茂みに自分のリュックを下ろし、子カラスには脱いだ上着を被せて保護するように置くと、僕は主犯格と向き合う形をとった。
すぐに足で稼いで、間合いを開ける。
奴に組み付かれたら体格差で不利になる。
空手で培った戦法だ。
ちょこまかと奴の周りを動き回り、時に摺り足、時に跳ねて緩急、相手に付け入る隙を与えない。
そのあいだに読めた相手の出方は、
上段から仕掛けてくるパワーの右フック。
僕はその一発を受けるつもりでいた。
それが最小限の被害であり、最大限の演出だと思った。
問題は、そのタイミングと退くポイント。
横目で自分の後方を確認後、ワザと一歩前へ出て、奴を誘う。
来た。
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