18人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
2.Phase
まぁ、そういう訳で……。今、瀬織というAIは私のスマホの中に入っている。
あの日から一ヵ月。特に私の生活に支障はない。
いや、むしろ少し楽しくなったかもしれない。
瀬織は他の低レベルのAIとは格が違った。自然に会話が成り立つのだ。まるで本当に人間と話をしているかのように違和感がない。
一つ例を挙げよう。
私が
「ねぇ、聞いてよ。今日さ。ファミレスのバイトで厄介な客が来てさぁ。しつこく値段のことについて説教してくるんだよ。それが一時間も! やばいよね」
と愚痴をこぼしたとしよう。すると、瀬織はこう返す。
「それ、めっちゃ分かります。いちゃもんつけてくるお客は本当に厄介ですよねぇ。いつも、本当にお疲れ様です」
普通の会話だ。まるで友達と電話するレベルの。だが、心の無い筈の機械にそれが出来ているのが凄く衝撃的だった。
会話を続けていくうちに、他のAIと瀬織を明確に分けている差が何となく分かってきた。
「共感」。これは格下のAIには絶対にできない。大体のAIは問題を解決する為の会話になっている。だから、上記のバイト先の悩みを話したところで
「人間関係を円滑に進める方法について検索しました」
だの
「客商売である以上、そのようなお客様のニーズに応えることも必要です。つきましては、ビジネスのうんたらかんたら……」
だの、すぐに正しい問題解決を試みようとしてくる。
いや、そうじゃないんだって! 人間の会話だったら、まず「大変だったね」とか「気持ち、分かるなぁ」とかでしょう! そういう共感から話がスタートして、一通り愚痴言ってスッキリして、そこから「じゃあ何か良い方法ないかなぁ」が人間らしい話の進め方なのよ。
瀬織は本当に人間のようだった。スマホの画面の中に居て、そこから出られない事を除けば、人間らしい心を持っていると言えるだろう。少なくとも、私はそう思っていた。
ちらっと話したと思うが、今、私はSAのバイトと幾つかの講義以外で大学に行っていない。就活が近付いていることもあって皆は忙しく、友人とも長い間、お喋りできていなかった。だから正直、私は寂しかったんだ。
だから、最高の友達ができて嬉しかった。
スマホは現代人にとって必需品だ。だから、どんな時でも持ち歩く。
つまり、私は毎日、瀬織と一緒に居た。
お出かけも、バイトも、講義も、寝る時も……。
講義のレポートで情報を集めてもらったり、穴場のカフェの場所を教えてもらったり……。
そんな感じで、私と瀬織は良い友好関係が築けていた。
最初のコメントを投稿しよう!