Summer Kiss

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Summer Kiss

 ボク、太一(たいち)の夏休みは毎年、父方の叔母の田舎に行くことが恒例行事である。 叔母の息子、ボクからすれば従兄弟に当たる同い年の明秀(あきひで)と会うことは、ボクにとっての夏休みの楽しみであった。 ボクは一人っ子で兄弟がおらず従兄弟の明秀を本当の兄弟のように思っていた。夏休みだけの疑似兄弟と過ごすことを心から楽しみにしていたのだった。  本来、楽しい筈の夏休みであるがボクの心の中に暗雲が立ち込めており、楽しむことは難しくなっていた。 なぜなら、ボクの両親は現在離婚調停中だからである。夏休みの間、二人きりで話し合いたいと言うことでボクは叔母の家に一人で預けられることになったのだ。  行きの電車の中で思うことは「離婚しないで欲しい」「お父さんもお母さんも仲良くして欲しい」のみだった。 窓の外を流れる風光明媚たる自然も、今のボクにとってはくすんだ出来損ないの水墨画(モノクローム)にしか見えなかった。  叔母の田舎の駅の改札口には明秀が迎えに来ていた。都会暮らしのボクはいつものようにスマホを自動改札にあてて通り抜けようとしたが、ドアが閉じて止められてしまった。 ああ、うっかりとしていた。この田舎の駅の自動改札はICカード非対応、ましてやモバイルICカードなど論外だ。 ボクは冷静になり、財布から切符を出して、やっとのことで自動改札を通り抜けるのであった。  明秀がボクに向かって駆け寄ってきた。 「太一ちゃん! 久しぶり! 元気してた?」 久しぶりに会う明秀だが、去年会った時に比べてあまり変化はなかった。去年は小五、今年は小六。第二次成長期の萌芽たる時期でも、たった一年ではそうそう変化が見られないのは仕方ないだろう。  ボクは明秀の問いに対して「まぁね」と素っ気ない返事をした後、叔母の家へと歩いて行くのであった。例年であれば、ワイワイガヤガヤとお互いの近況報告などで盛り上がるのだが、今年はそれがなかった。ボクが黙りこくっているせいで、明秀も口を閉じたままなのだ。ボクの方が両親の離婚問題で楽しい気分になれないせいか、近況を話す気分にもなれない。  明秀も母親(ボクから見れば叔母)より、ボクの状況を聞いているのか、あまり話しかけて来ない。ありがたいのだが、気を遣わせているようで、冷たい潮風のような罪悪感が胸を叩く。
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