乗車場

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乗車場

バーを出たら、夜になっていた。商店街が反比例するように街頭や店舗の明かりがビカビカと光っている。サラリーマン達が居酒屋にわちゃわちゃと入る風景。ケーキ屋の前で子供がママにおねだりする風景。鰻屋屋が店頭で夫婦で煙を出す匂い。 それらの全てから七奈は逃げるように、裏路地に入った。 街中華の換気扇から、鍋を回す金属音やテレビの野球中継音、客のくだらない笑い声が聞こえる。 路地裏でさえ、わたしの居場所でないと七奈は立ち上がった。ふとももに嫌な温かさが伝わる。 三枝の精液であった。 ポリバケツに手を置き、なんとか立ち上がる。 中華屋の裏からさらに、裏道を何本かふらふらと歩き七奈は神社の鳥居前に着いた。 市街地になりマンション建設が進む中、この小高い山が唯一自然がある場所であった。 背景の住宅地とは裏腹に、鳥居の先の階段ではうっそうと茂る静寂でしかない。 しばらく七奈は階段下から神社を見上げた。 祖母と2人でよく登った階段。 でも、七奈はその鳥居をくぐることはできなかった。 わたしは汚れた人間。 七奈は何度も心で叫ぶ。またそこでしゃがみ込む。 目の前の住宅からは、悪ふざけした子供にしかるママの声が聞こえた。たった一枚の壁のこちらと向こうでは世界がまるで違う。七奈はそう思い、引越し用にダンボール解体の為の黄色いカッターをバックから出した。 右手でそれを持ち、左手腕に薄く切りつける。 一つ切ることに、わたしは意味がない。わたしが居ても何もない。わたしは汚物だ。などと、定規のマス目のように1センチ単位で切り、刻印を入れた。 意識が薄れるまで。 足が冷たいと七奈は、目を覚ます。 足を見ると、手から流れた血と精液が混じり太ももで固まっていた。 血で乾いたガビガビのカッターを、その精液と血でまみれる足に刺した。 その瞬間、七奈の前にバスが停車した。
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