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駄菓子屋の冤罪
夜の風景を窓から眺めていた。
隣の鶴も気にはなったが、自害もしようとしていた七奈に一般的な判断能力は無いかった。
肉体としてのギリギリの生命維持思考が、基本常識からあらゆる普通を遮断した。
市街地を抜け、バスからの風景が変わる時七奈は気づく。
あれ?あの駄菓子屋おじいちゃんが死んで何年も前に閉店したはずなのに、と。
駄菓子屋はいつものように薄暗く、しかし子供達が賑わっている。ちょうど信号でバスは止まる。
店先のゲームをする男の子や、中でお菓子を選んでる子達の中で鳴き声が聞こえた。
赤いワンピースを着た女の子が、店内でしゃがんで泣いている。
バスの入り口が何故か開いた。
「救済するか?」
鶴は言った。
何か心にざわめきを覚えて、わたしはバスを飛び降りた。
鶴もついてきた。
駄菓子屋の周りは畑であった。
七奈はもう10年も前にマンションが建てられはずの風景に違和感を覚えた。でも赤い女の子のが気になり駄菓子屋の外から、中を伺う。
「こいつが、クジ泥棒だぜ」
子供達は、店主のおじいちゃんにアピールする。
「おれも見てたもん、こいつがくじの景品をいつも盗んでるとこ」
七奈の脳内で過去の事が再生された。
子供の時、あの駄菓子屋で冤罪された事を。
クジは百円で、1等から10等まであった。1等はゲームソフトで10等はガムやアメである。七奈は3等のぬいぐるみが欲しく、お小遣いを貯めて月に何度かクジを引きにきていた。
当時と同じように、店頭には張り紙が貼られていた。
《景品盗んだら、警察と親と学校に通報します》と。
子供達が赤い女の子のたすき掛けバックを無理矢理開け、中から景品を取り出した。
虫のおもちゃやピストル、ヒーロー者のカードやら、決して女の子が欲しがりそうもない物が出てきた。
駄菓子屋のおじいちゃんは女の子に「大丈夫だよ。わたしも子供の時、畑から芋とか盗んだし」と優しく微笑んだ。
あやまれよ!早くあやまれよ、と子供達ががなりたてる。
七奈脳内に、さらに過去の記憶が深掘り再生された。
赤い女の子と同じように、ウサギのぬいぐるみが欲しく毎月クジを引きに行っていた事を。
その時、近所の悪ガキ集団が景品のおもちゃを盗んでいた事も目にした事がある。
悪ガキ集団が自分に、一緒にやろうぜ。ウサギのぬいぐるみが欲しんだろと持ちかけられるも、頑なに首を横に振った過去を。
景品が窃盗されてると、近所や学校にまで話題になりいつも駄菓子屋で物ほしそうに景品を見ている七奈が容疑者になった。
そして、あの赤い女の子と同じようにバックに景品を入れられて全ての罪を被せられた。
駄菓子屋も、学校も近所の住民も穏和ではあったが
あの家の子だからねと陰で噂になった。
あの家の子だから、その言葉は大人になった今の七奈にも深く鋭利な刃物のように突き刺さっていた。
七奈は駄菓子屋に入った。
まず女の子の前にしゃがみ込み、大丈夫よと頭を撫でる。
「どうなの?」
と聞く七奈にゆっくり顔をあげ、強い目で首を振る赤い女の子を見た。
そして女の子の手を引き駄菓子屋から立ち去ろうとした時呼び止められた。
「貴女、保護者さんかな?この子警察に引き渡ささないと、大丈夫じゃよ。わたしは以前からこの子を知ってる。悪いようにはしないよ」
駄菓子屋の店主は七奈にも、優しく微笑みかけた。
七奈の頭の中で、自分の過去がまたフラッシュバックした。確かに優しい、優しかったが一切わたしを信用してない脳内停止してる気持ち悪い駄菓子屋の店主の事を。
「何が欲しかったの?」
七奈が赤い女の子に聞くと、黙って景品を指差す。
それはウサギのぬいぐるみであった。
そのまま七奈は子供達のポケットや、ランドセルを漁り駄菓子やおもちゃを取り出し床にばら撒けた。
何も言えず俯いている店主と泣き始めた子供を背に、七奈は赤い女の子の手を引き店を出た。
七奈は手に何かあるのに気づく。
赤い女の子が握りしめた、汗で湿気におびた一枚の百円玉であった。
そのまま七奈は駄菓子屋に引き返し、百円玉を店主の手に叩きつける。
「さあ、引くのよ。はずれでも文句はなしね」
七奈の言葉に、赤い女の子はにっこり笑いくじを引いた。
8等であった。
七奈がまた赤い女の子の手を引き、店を出ようとした時店主のおじいちゃんが赤い女の子の前にしゃがみ込んだ、3等のウサギのぬいぐるみを出し。
七奈と鶴は何も言わずに、しばらく見守った。
赤い女の子は迷ったあげく、首を横にふり「いらない」と逆に七奈の手を持ち歩き出す。
店主のおじいちゃんと子供達に振り返る事もなく、女の子はバスに乗った。
「合格のようだ」
鶴が言った意味はよくわからなかった。
それよりも七奈は悔しさや怒りでまた泣きはじめ、赤い女の子も七奈の血まみれの足に抱きついた。
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