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序章
七奈は祖母の和室で折紙を見るのが好きであった。
祖母の細くしなやかな手付きから、次々と現れる動物や植物、魚に家具。
紫の向日葵、金色の蛙、銀色の雲、黄色いタコ、緑の金魚、、
七奈は両肘をテーブルに肘をついて顎に当て想像する。
和テーブルの真ん中にある折紙の束が泉で、そこからあらゆる物が創造される。
「おばあちゃんは神様だね」
七奈は神様が創造した物を泉のまわりに並べて笑った。
七奈はその中でも虹色の鶴が大好きであった。
虹色の折紙ではなく、赤色オレンジ色黄色緑色青色藍色紫色の七羽の鶴だ。
祖母折神那岐(おりがみなぎ)
七奈は鶴そのものも好きであったが、那岐の七色の鶴のお伽話が大好きだった。何度も何度も鶴を折っては七奈はその話しを聞いた。
たくさんの鶴は千羽鶴にし、物や植物などは透明のアクリルケースに配置し老人ホームや介護施設などに配りに行った。特に身寄りが無い老人をメインに回る。タイトルと小さな手紙を添えて。
七奈には特技があった小さな物語を創る事だ。
普段からホームや施設に行き、老人一人一人と接していたせいで性格や体調や過去の事などを記憶していた。那岐もその才能や発想には驚いていた。
その日も七奈は那岐がアクリルケースを持ち近くの介護施設に向かった。
老人の名前は里村キクノ(82歳)身寄りは無い。いわゆる戦争孤児だ。連れ合いの夫は数年前に亡くなり子は出来なかった。キクノは専業主婦の傍クリーニング店で長く働いていた。
「あら、七奈ちゃん来てくれたの」
ありがとうねえ。わたしは旦那が亡くなって家族もいないし、なんの為に生きてきたか」
「キクノのおばあちゃん。今日はこれ持ってきたの」
七奈はアクリルケースに入った折紙を、医療ベッドのサイドテーブルに置いた。
タイトルは森のクリーニング屋さん
七奈は紙に書いた物語りを読み始めた。
【森には評判のクリーニング屋さんがいます
名前はアライグマのキクちゃんです
キクちゃんは服でも身体でも物でも何でも綺麗にしてくれます
森の動物や植物達はなんでもかんでもキクちゃんにお願いするから大忙しです
しかしそんなキクちゃんが倒れてしまいました
でも行列は絶えませんでした
キクちゃんのベッドにみんながお見舞いやお手伝いにくるからです
キクちゃんは何も出来ない自分にごめんねとみんなに言います
でも森のみんなはこう言いました
キクちゃんとお話しするとこころが洗われるんだよ
と
キクちゃんのクリーニング屋は再開できませんでしたが
いつまでも行列は絶えませんでした】
キクノの部屋のドアが開いた。
何人かの老人が車椅子と杖で入ってきた。
「キクちゃん、あの話し竹下さんに聞かせてくれや」
「キクちゃん高田さんに聞いたんだが、例のクリーニング屋の面白い話し頼むよ」
キクノのもとにわらわらといつものように人が集まりはじめた。
七奈とキクノはアクリルケースのアライグマに並ぶ動植物を見て、再び目あわせて笑った。
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