悲劇のヒロイン劇場

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パソコンの画面から顔を上げると16時半だった。 終業時間まであと1時間。思わず、ため息が出る。 この1カ月は散々だった、特に今週は。 私はすり減っていてもう限界だった。 今日こそは何もかも放り出して、早く帰ろう……ああ、そうだ、あそこへ行こう! 思いつくと、途端に元気が戻った。 スマホをもってトイレにかけこみ、お気に入り登録しているお店のページを立ち上げる。今夜の予約の締め切り17時まであと少し、ぎりぎり間に合った。枠も空いている。 「ラッキー」 思わず小声でつぶやいて、周りの気配をうかがった。幸い、誰もいないようだ。 しかも、お気に入りの美夕ちゃんが空いている。 「やった!」 いそいで、問診票を埋めて、美夕ちゃんを指名する。これで、ここ1月のすべての嫌なことは吹き飛ばせる。 すっかりいい気分で席に戻り、誰にも話しかけられないように忙しいオーラを出して、全力で残った仕事をこなしていく。
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