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結局、退社できたのは18時半を回っていた。まっすぐ向かってぎりぎりというところ。時間に遅れても問題はないが、少しでも時間が減るのは嫌だった。どこかで夕食を済ませていこうと思っていたが、無理そうだ。仕方がないので、コンビニでおにぎりと缶チューハイを買った。これはこれでわびしくて、かえっていい。
気が付くと、にやけていた、だって、私は、今からあそこへ行くのだ。
家と反対方向の繁華街へ向かう電車に乗って、にぎわう駅で降りる。
飲み屋街へつづく人波から外れて、人通りの少ないほうへと、どんどんはいっていく。喧騒を背に、細い路地を進んだ奥に、その店はある。地下へ下りる薄暗い階段のわきに、きらきらと場違いな看板が出ている。
「悲劇のヒロイン劇場」
知る人ぞ知る、穴場スポット。今の私にとって、最大の癒しの場だ。
はやる心を抑えて階段をおりる。暗いうえに狭いので、うっかりすると滑り落ちそうになる。重いドアを開けると、ピンク色の照明が出迎えてくれる。その安っぽい感じが、なんとなく文化祭めいていて私は好きだった。
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