悲劇のヒロイン劇場

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受付は無人で、タッチパネルで操作する。他の部屋の人たちはすでに入室しているのか、あたりには人の気配がない。受付番号を入力すると、自動で部屋番号の書かれたカードキーがでてくる。 今夜は、105号室だ。 細い廊下の両側に、ほとんど同じように見えて、少しずつ違う模様の扉が並んでいる。どの扉の向こうも人の気配はしないが、中には誰かいるのかもしれない。この部屋は防音機能が付いていて、どんなに大声をあげても周りには聞こえないのだと注意事項で読んだ。 105号室の部屋をカードキーであけて入る。中は、薄暗くて、正面の大きなモニターに向かって広いソファとサイドテーブルが置いてある。うっすらとアロマの香りがするけれど、それが何か私にはわからない。 広くはない部屋に荷物を投げ出して、伸びをする。 空調が適度に効いていて、汗が一気に引いていく。時刻は19時10分、少し遅れたけどこれくらいは許容範囲。 足にはりついた靴をぬぎすてて、ソファに倒れこむ。柔らかいクッションを枕代わりに、目を閉じると、ため込んだ疲れが、手足の先までひろがっていって、大きなため息が出た。 ここに来たからには、もう、大丈夫だ。
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