悲劇のヒロイン劇場

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この店は、お客の注文通りの映画をつくって見せてくれる。お客は主人公になりきって、店の名の通り、たっぷりと『悲劇のヒロイン』気分を味わえるのだ。 畑違いの部署に異動して慣れない仕事に追われる日々、仕事のできる後輩のユミちゃんはさっさと有給休暇を取ってしまう、増える業務、終わらない残業。 彼氏との食事も遅刻した上に口から出るのは愚痴ばかり、そのせいなのか週末の約束もメール一つでキャンセルされた。クリスマスにもらった時計の電池が切れたけれど、交換しに行く暇もない。なんだか不吉な未来を暗示しているような気分になる。 楽しみにしていた連ドラも予約を忘れて見られていない。コンビニ弁当が続いているせいで気が付くと体重まで2㎏も増えている。疲れているのに悪夢でうなされて目が覚めるとそれから目が冴えて眠れなくなり、朝から重い頭をかかえて通勤電車に揺られる。 次々とさくらの目の前に現れる出来事は、この1月に私が経験したことそのままだ。 缶チューハイを片手に、私はイライラを募らせていく。
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