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もうすぐ夏休み
期末試験を終えて、周りは夏休みモードに突入している。今回は無事に1位を奪還できてホッと胸を撫で下ろす。ちなみに須藤拓海の名前はどこにも見当たらなかった。
夏休みといっても僕がやることは変わらない。家と塾の往復だけだ。
「りとは夏休み何すんの?」
「勉強」
「遊ぼうよ」
「塾があるから無理」
「毎日じゃないだろ?」
「そうだけど、自習しに行ったりするし」
「うげ。たまには息抜きしたほうがいいぞ?」
棒付きの飴を咥えた須藤が心配そうな顔をした。これは僕にとって普通のことなんだけれど。
「息抜きね……」
「海行ったり祭りに行ったり。夏っぽいことしたくならない?」
「全然。勉強は楽しいし。遊ぶ人いないから考えた事がなかった」
「なんでいつも1人なの?」
「だって……」
あの噂が出回るようになってから何となく人と距離を置くようになった。またあの人みたいな人が出てくるかもしれない。散々追い払ってきたけど、男達が襲い掛かろうとしてくる瞬間も、自分の事をいやらしく見てくる目付きも不快だし怖い。
今まで告白されて少し変わった人もいた。どうして好きになってくれないのかと詰め寄られたり、勝手に付き合ってると思い込まれて他の人に色目を使うなと詰られたり。
好意を抱かれるのが怖い。人と距離を置けば減らすことができるのではないか、誰とも関わらず空気のような存在になれば自分の事なんて気にしなくなるのではないか。自分にできる最大の防御は人と距離を置くこと。そう考えるようになった。
「……怖いから」
「怖い?何が?」
「いや、何でもない」
「俺は怖くない?」
「怖くない」
だって僕に好意を抱いていないし。それに須藤といると気を使うこともないから楽だ。
「そっか。りとの特別になれたみたいで嬉しいな」
「別に特別じゃない」
「えー、特別じゃん」
飴を転がしながら言う須藤を見て笑う。こうして気軽に話をできる須藤は僕にとって特別なのかもしれない。そんな事絶対に言わないけれど。
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