ご両親に挨拶!?

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 階段を上がって少し進んだところにある扉を開けて中に入る。 「広いな」  ベッドと学習机に本棚とテーブルが置かれている須藤の部屋。あまり物がなくて広い部屋がより広く見える。 「適当に座って」 「緊張したー」 「ごめんな、付き合わせて。1回会ったら満足すると思うから」 「うまくできていたかな?」 「できてたんじゃない?」 「それならよかった」 「俺の部屋にりとがいるの変な感じ」  須藤が僕をジッと見つめてきた。その視線に少し緊張してしまったが平静を装う。 「そりゃ違和感はあるだろう。友達の家に行くことがないから分からないんだが、何をすればいいんだ?」 「うーん、やらしいこと?」 「友達の家だぞ?」 「付き合ってるし?」 「フリな、フリ」 「本当に付き合う?」 「は?」 「親も気に入ったみたいだし」 「何言ってるんだ?」 「俺はいいよ?付き合っても」 「なんでそんな上から目線なんだよ。冗談はやめてくれよ」 「冗談じゃないって」 「うわ」  いつかのように押し倒された。須藤の真剣な顔が間近に迫る。 「須藤?」  戸惑う僕に構うことなくさらに須藤の顔が近付いてきた。ちょっと待って。このままじゃ……。 「フ……アハハ、りとの顔めちゃくちゃおもしろい」  そう言って肩を震わせて笑い始めた。 「お前……離せ」 「ごめんごめん。りとって本当にかわいいよね」 「馬鹿にするな。全く」  心臓が爆発しそうなくらいにドキドキしていて須藤の顔を見る事ができない。悪い冗談はやめて欲しい。 「俺の部屋何もないんだよね」  さっきまでのことはなかったかのように普通に話しかけてきた。まだ動揺している僕の気も知らないで。でもそれを悟られたくなくて、努めて普通に話し返す。 「スマホでゲームでもやるか」 「そうだなー」  スマホでゲームをしたり、ダラダラ喋ったり、合間にまた持ってきてくれたケーキを食べたりして、ご両親への挨拶兼初めての須藤家訪問は幕を閉じた。 「りとくん、また遊びに来てね」  お母さんが笑顔で見送ってくれた。 「ありがとうございます。お邪魔しました」 「りと送ってくるわ」  須藤と一緒に家を後にした。 「ん」  差し出された手を握る。いつも手を繋ぐようになってしまった。 「今日はありがとう」 「あんな優しいご両親に心配かけるようなことしていたなんて信じられないな」 「今はもうしてねーよ」 「本当か?」 「親よりもうるさいやつが隣にいるからな」 「そんなにうるさく言ってるつもりはないが?」 「無自覚かよ。これからもよろしく頼むわ」 「なんだよ、それ」  これからもよろしくというのは恋人のフリか?それともうるさく言う事か?  僕達はいつまでこの関係を続けるんだろう。お互いに好きな人ができるまで?須藤が好きになる人ってどんな人なんだろう。そんな事を考えていると胸の中がモヤモヤとした。 「どうかした?」  顔を上げると、黙り込んだ僕を心配そうに見つめる須藤と目が合った。また少し須藤の背が伸びた気がする。 「なんでもない」  もし須藤に好きな人ができても今までみたいに僕と会ってくれるんだろうか。そうじゃないならこの場所を他の人に譲るのは……嫌かもしれない。
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