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最寄り駅まで歩いて、電車に乗る。
「人多いな」
「いつもこんな感じ」
「そうなんだ」
ドアを背にして、目の前に須藤が立っている。混雑しているから必然的に距離が近くなる。緊張してきた。
「どんくらい乗ってんの?」
「二駅だけ」
「ふーん」
さり気なく須藤の顔を見つめる。窓の外を見ている須藤をかっこいいと思ってしまう。ふいに目が合った。顔が熱くなって目を伏せた。目が合った瞬間に目を伏せたのおかしかっただろうか。顔を上げることができなくて、降りる駅に到着するまでずっと下を向いていた。
駅に到着して、人に押し出されるようにしてホームに降り立った。
「目の前のビルだからここでいいよ」
「いや、そこまで行く」
「えー?」
先に歩き出す須藤を仕方なく追いかけて、改札を出て二人で歩いた。
「ここだから」
「へー、ここに通ってるんだ」
「そう。送ってくれてありがとう」
「全然。ちょっとでも長くりとといたかっただけだから」
「な……なんだそれは」
「じゃあね、勉強頑張って」
「うん」
手を振って離れていく須藤を見送った。長く僕といたかったって……その一言が嬉しくて顔がニヤけてしまう。
「理仁?」
「あぁ、誠一」
「今の誰?彼氏?」
「いや、友達だよ」
「にしては距離感近くなかった?」
「付き合ってるフリをしてるから」
「じゃあ、付き合ってないってこと?」
「うん、まぁそう」
「なんだ、びっくりしたー」
ここでは僕の噂を知ってる人がいないし、僕がΩだということを知られていないから、普通に話すことができる。誠一とは1番よく話すと思う。
教室に入ると須藤と一緒にいるところを他の人にも見られていたようで、なぜか質問攻めにあった。友達だと答えると、あの子かっこよかったよねという話になって心の中で大きく頷いた。「紹介して欲しい」と言われて「恋愛には興味ないみたいだよ」と嘘をついた。彼に興味を持たれるのが嫌だった。
この日の授業は集中できなくて、ぼんやりしてる間に終わってしまった。こんな事は初めてだ。家に帰って復習しないと……。
「理仁、途中まで一緒に帰ろう」
「いいよ」
誠一とは帰る方向が一緒だから、こうして一緒に帰ることが多い。
「誠一もさ、須藤……えっと僕と一緒にいた子のことをかっこいいと思ったりした?」
「うーん、まぁ顔はいいかもしんないけど、ヤンキーっぽくて怖そうだなって思った」
「そっか、なるほどね」
「どうして?」
「いや、何となく聞いてみただけ」
「ふーん。理仁はああいう人がタイプなの?」
「え、タイプ?いや、そんなんじゃないけど」
「好きなのかと思った」
「は?いや、そんな訳ないじゃん」
「そんな否定しなくても」
僕が須藤を好き?そんな事ある訳がない。須藤だぞ?そもそも好きってどんな感じなんだろう。
帰宅して教科書を開くけれど、好きという言葉が気になって集中できない。
「ダメだ、好きってなんだ?」
スマホで『好きとは』と検索する。
辞書によると『心が惹きつけられること。気持ちにぴったり合うさま。嫌いの反対』という意味をもつとある。なるほど。
連絡が来るかこまめに確認するかはしないな。自分ではない他の誰かと仲良くしていると嫉妬する……当てはまる。一緒にいたい、過ごしたいと思う……当てはまる。会えないと寂しい……うーん、寂しくはないかな?
調べていくうちに、自分のこの感情が恋なのではないかと思う節がいくつもでてきた。
僕は須藤のことが好きなのか?未だに疑問符が浮かぶ。やめだ、やめ。考えてもよく分からない。自分の中でこの気持ちに名前がつく日は来るのだろうか。
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