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小川さんに大丈夫だと言った手前引っ込んでいるわけにもいかず、接客をこなした。「きれいだね」と言われることはあっても流石にお触りはあの1回きりで、無事に職務を全うした。制服に着替えるために借りている教室へ向かう。
「りーと」
「うわ、須藤か。ビックリした」
「そんな格好のままどこ行くの?」
「着替え。違う教室だから」
「不用心だな。襲われたらどうすんだよ」
「いや、ないだろ」
「はぁ、本当危なかっしい。俺がついてくから」
「一人で大丈夫だって」
「俺が気になるの。ほら行こ」
「あぁ。うん」
須藤が襲う可能性だってあると思うんだけど。隣を歩く須藤をチラリと見上げる。そんな事しないか。
教室に着いて、須藤には外で待っていてもらった。帯に手をかけた僕の背中に須藤の声が響いた。
「あぁ、待って。やっぱ写真撮りたい」
「はぁ!?嫌に決まってるだろ」
「お願い。1枚でいいから。りとの好きなパン買ってあげるから」
「なんだよ、それ。……まぁ見返りがあるならいいか。1枚だぞ」
扉を開けて須藤を教室にいれた。
「やっぱさ、すごいきれいだよね」
「そりゃどうも。撮るならさっさと撮れ」
「すっごいエロいし」
「エロい?」
スマホ越しに見つめられて、金縛りにあったかのように動けなくなる。見たことのない表情に戸惑ってしまう。
「エロいでしょ。首筋とか裾から見える足首とか」
須藤の視線が上から下へ移っていく。さっき知らない人に見られた時とは全然違う。その熱っぽい視線に動揺してしまう。
「いや、女の子ならそうかもしれないけどさ。僕男だし」
「だから?りとは男だけど俺からしたらどんな女よりも唆られるけど」
「いや、須藤。何言ってるんだよ」
「……ごめん。何言ってるんだろうな」
カシャっとスマホのシャッター音が鳴って、須藤は無言で出ていった。
何言ってるんだよ。心臓がうるさいくらいにドクドクしていて、思わず座り込んだ。
本当に僕のことをそんな風に思ったのか?それともただからかっただけ?須藤の真意が分からなくて混乱する。
乱される。須藤に、僕の心は乱されている。
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