この気持ちは

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 教室に戻って「手伝うよ」と声をかけて、ひたすら注文されたドリンクの準備をした。手を動かしていたら何も考えなくて済む。 「海堂、もう当番の時間終わってるぞ?」 「あっ、これだけやるよ」 「ありがとう。助かった」  もう一人の学級委員である高階くんに声をかけられて我に返る。時計を見ると13時半になろうとしていた。もう少しで始まるな。  体育館に向かって歩く。友達同士で、カップルで楽しそうに笑い合う人達とすれ違う。人混みの中を目を伏せて足早に歩く。以前なら別に一人でいいと思っていた。でも今は隣に須藤がいればいいなと思う。  体育館の扉の前に立つと盛り上がる歓声と歌声が聴こえてきた。まだ軽音部のライブ中か。そっと扉を開けて中に入ると熱気とみんながジャンプして起こっているのか振動を感じた。壁際に立ってその光景を眺める。  何の歌か分からないけれどボーカルの人が上手いという事は分かる。激しく脳内が痺れるようなサウンドと甘い歌声がアンバランスなのに心地良い。目まぐるしく変わる照明の光に照らされて曲は終わりを迎えた。湧き上がる歓声に包まれながら「ありがとうございました!」と爽やかに告げてバンドメンバーは舞台上から姿を消した。  すごい。まだドキドキしている。ほんの少し聴いただけだけど、ライブって楽しいんだな。たぶんファッションショーがなかったら来ることはなかった。須藤も見ていたかな。準備してるから無理か。一緒に見ることができたらよかったのに。須藤はどんな風に感じただろうか。須藤って音楽を聴くのだろうか。めちゃくちゃ激しい曲とか聴いてそう。  機材が片付けられて、人々が真ん中を開けるようにして座り始めた。なるほど、真ん中をランウェイに見立てて歩くのか。少し出遅れてしまったけれど、折り返し地点の位置に陣取る事ができた。沢山の人に埋もれて始まりの時を待つ。  始まりを告げるアナウンスが流れて、トップバッターの女の子が二人姿を現した。  ふわふわした妖精のような衣装に身を包み、にこやかに歩いてくる。友達の集団の前を通ったのか手を振って歓声が起きた。  次々と前を通り過ぎていく人達がみんな輝いていて眩しく見えた。この中に須藤も混じっているのか。全く想像ができない。  かわいく明るい音楽から一転してお腹に響くような重低音の激しい音楽が鳴り響く。雰囲気が一転してダークな雰囲気の衣装を身に纏った人達が出てきた。格好いい。ここで須藤は出てきそうだなと何となく思った。  前の方でどよめきが起こって舞台上を見ると須藤が立っていた。無表情で前を向き、一歩また一歩と歩みを進める。あまりにも存在感がすごくて目が釘付けになる。今までに出てきた人達には本当に申し訳ないけれど、須藤が1番格好良く見えた。  この群衆の中にいる僕に気づくだろうか?気付いてほしい。祈るような気持ちで須藤を見つめると、不意にこちらを見た須藤と目が合った。  僕を見た瞬間表情を崩して、手をピストルの形にして「バン」と打つポーズをした。あっ、何これ。撃ち抜かれた気がする。僕の周りから歓声が上がった。  見つめる僕から目を逸らして、くるりとUターンをして舞台上へと戻っていった。  何だよ、さっきの。かっこよすぎだろ。その後は何も見えなくなって、いつの間にか全員が舞台上に立っていた。よく見ると服を作ったのであろう人達が中心にいて頭を下げていた。慌てて自分も拍手を送った。拍手喝采の中モデルの人たちがはけていき、最後に残った作りての面々がもう一度頭を下げてファッションショーは終幕した。
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