挨拶

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 階段を上がって自分の部屋に入る。 「狭くてごめん。一応片付けたんだけど」 「ここがりとの部屋なんだ。すごいりとの匂いがする」 「そうかな?」 「りとー、ヨシヨシして。俺頑張ったよね?」 「頑張った。めちゃくちゃ嬉しかったよ。須藤のことますます好きになっちゃった」  頭を撫でてあげると嬉しそうに笑った。 「すっごい抱きたくなる」 「もう、すぐそういう事言う。格好いいが台無しになるじゃないか」 「だってりとが好きとか言うから」 「して欲しくなるからやめろ」 「ちょっとだけ」 「ダメ」 「じゃあデートしようよ」 「デート?」 「そう。この部屋にいたらりとに触りたくなるし」 「いいよ。どこ行く?」 「映画でも見る?」 「何やってるんだろう」 「行ってから決めればいいんじゃない?」 「そうだな。じゃあ行こうか」  出かけると伝えて家を出た。誰かと映画を見た経験がないから内心緊張している。格好悪いから気付かれたくなくて平静を装っているけれど。 「映画館って少し移動しないとないよな」 「そうだな」    商業ビルが立ち並ぶ駅に到着して、須藤の隣にくっついて歩いていく。全く分からないから須藤頼みだ。 「何の映画にする?」 「須藤は普段どんなものを見るんだ?」 「うーん、なんだろう。アクションとかホラーとか」 「じゃあこれにしようよ」 「ホラーだよ、これ?」 「うん、知ってる」 「お化け屋敷であんなに怖がってたのに、これ?」 「だから映像は大丈夫なんだって」 「意味わかんない」 「いいじゃん。さぁ、チケット買おう」  人気の作品みたいで、席は結構埋まっていた。後ろの端っこの席を選んでチケットを買った。  飲み物を買って意気揚々と映画館に入っていく。小学生の頃母親と来て以来の映画館にテンションが上がる。 「須藤、楽しみだな」 「ウキウキしちゃって、かわいいんだから」 「別に普通だよ」 「手繋いで」 「怖いのか?」 「ちげーよ。手を繋ぎたいだけ」 「いいよ」  暫らくすると予告が始まり、照明が落とされて本編が始まった。意外と怖くて、何度か須藤の手を力強く握ってしまった。須藤の方を見ると僕の方を見ていてドキリとしてしまう。口パクでチューしたいと言われて、目を丸くする。周りを見回して軽くキスをした。いたずらっぽく笑う須藤に胸が高鳴る。何度須藤にドキドキさせられるのだろう。隣の須藤が気になり過ぎて後半はあまり頭に入ってこなかった。好きな人と映画を観るものではないかもしれない。 「結構怖かったな。りと、俺の手めちゃくちゃ握ってきたし」 「須藤もだろ?」 「そうかなー?」 「そうだよ」  お腹が空いて、休憩がてらカフェに入った。 「須藤と出かけるって楽しいな」  思わず本音が口から出ていた。我に返って恥ずかしくなり、運ばれてきたカフェオレを飲みながらクリームがたっぷりついたパンケーキを頬張った。 「ほんと、かわいいよね。りとって。またクリームついてる」  僕の唇の端を指で拭ってそれを舐めた。 「おいしい?」 「うん。クリームもっと多くてもいいんだけどな」 「えぇ?こんなに山盛りなのに?」 「そうかな?普通じゃないか?」 「多すぎる」 「そうかな?」  おいしいパンケーキをほぼ一人で平らげてしまった。 「ごめん、僕ばっかり食べてしまった」 「別にいいよ?俺はちょっとで良かったし」 「そうか」  店を出て、二人で歩く。出かけるのも楽しいけど、部屋で過ごすことが多かったから、須藤に触れられないのがもどかしく感じてしまう。
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