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初めてのプレゼント
夏休みに入って塾の合間に須藤と会うようになった。母に言うととても喜んで、臨時でお小遣いをくれる程だった。友達と遊びに行くなんてことなかったもんな。心配させてしまっていたようで申し訳なくなる。
須藤とはファミレスでご飯を食べながら喋ったり、一緒にやってるスマホのゲームをやったり。特別に何があるというわけではないけれど二人で過ごす時間は楽しい。
「りとってどこで服買ってんの?」
カルピスとオレンジジュースが入ったグラスの中身をストローで掻き混ぜながら須藤が問いかけてきた。
「どこってその辺の店?」
「なるほど」
「どうして?」
「何ていうか絶妙にダサい」
「えっ、そうなの!?かわいくない?このネコ」
今日は胸元にネコのワンポイントが入ったポロシャツを着ている。とても気に入っているのだが……。
「うん、りとが着たらかわいく見えるから不思議なんだけど、普通に考えるとダサいよね」
「マジか。初めて言われた」
「りと友達いないもんね」
「憐れむような目で見るなよ。好きで一人でいるだけなんだから」
少しむくれながらメロンソーダに口をつける。
「着せ替えして遊びてー。何着せても似合いそう」
「なんだよ、着せかえって」
「よし、服を見に行こう」
「えっ?お金ないよ?」
「いいのあったらプレゼントするよ」
「なんで?お金あるの?」
「したいから。1年の時にバイトしてたの貯め込んでるからあるんだよね」
「夜遊びしてたのに?」
「別にお金使わないし」
「ふーん」
夜遊びがよく分からないから曖昧に頷いておく。お会計を済ませて服を見に行く為に並んで歩く。須藤は半袖のシャツにハーフパンツという特に何の変哲もない服装なのに洗練されているというか、おしゃれに見えるから不思議だ。何が違うんだろ。あっ、このワンポイントか。
普段入らないようなお洒落な服屋さんに平然と入っていく須藤の後をビクビクしながら入っていく。「これいいな」と言いながら僕に服をあててはラックに戻すを繰り返す。
「はい、これ着て」
「うん」
ゆるっとしたベージュのセットアップと白いTシャツを渡された。こんなTシャツ持ってる気がする。試着して扉を開けると「超似合う。くるって回って」と言われたからゆっくりと回った。
「よし、これ買おう」
「え、Tシャツとか多分持ってるよ?」
「まあいいじゃん。そのまま着ていこう。よし、サイズは分かったからいけるな」
戸惑いながら試着室から出るとご機嫌な須藤は店員さんを呼んで「これ1式下さい」と言って財布を取り出した。いくらするんだ……これ?
「値札ってどこについてるんだろ」
いつの間にかハサミを手にした須藤が僕に近づき、首の後ろを引っ張った。値札を出す時に須藤の手が肌に触れてビクリとしてしまう。
「よし、切れた。下は?」
「自分でやるよ」
慌ててそう言うと「上と一緒になってるんで」という店員さんの声が聞こえてホッとする。お金を受け取った店員さんがレジの方に向かった。その隙に須藤に気になっていることを聞いた。
「高いんじゃないの?」
「気にしない。気にしない。また買ってあげるから」
「いや、いいよ」
「だって着てほしい服いっぱいあるし」
「意味が分からないだろ。とにかくこれで最後な?」
「うーん」
「はっきり返事しろ」
肯定なのか否定なのか分からない返事をされてもう一度詰め寄ろうとしたところで店員さんが戻ってきた。いつの間にか回収されていた元々着ていた服は袋に入れられて渡された。こんなお洒落な袋にわざわざ……恐縮してしまう。
店員さんに見送られて店を出た。須藤は上機嫌で「アイス買ってあげようか?」などと口走っている。
「買ってもらわなくても、アイスは買える」
「食べる?」
「食べる」
慣れない場所にいたから甘いものを食べて癒やされたい。
目についたジェラートの店に入ってミルクといちごのジェラートを注文した。須藤は食べないらしく、一人で食べるのもなと思って何口かあげた。
「美味しいな」
「だね。一緒になってるところも美味しいよ」
「りとついてる」
口元を拭われて、その指を須藤が舐めた。舐めるんだ。その仕草に少しドキドキしてしまった。
「甘っ。りとって意外と豪快な食べ方するな」
「悪かったな。お上品じゃなくて」
「いや、いいと思うよ?」
「あっそ」
顔に熱が集まる。どうしてドキドキしてしまうんだ。
チラリと須藤の方を見る。手慣れてるよな、須藤って。今までに付き合ったことあるんだろうか。格好いいし、きっとそういう人いたよな。そう考えて胸がチクリと痛んだ。
「これありがと」
「また着てきて」
「うん。じゃあ、また」
「うん、また連絡する」
手を振り別れて家路につく。
着慣れなくて何度も服を見てしまう。須藤が選んでくれた服。それが何だかとても嬉しくて、家に帰って着替えてもしばらくその服を眺めていた。
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