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「フィン、お前は俺の命を救ってくれた恩人であり、俺の最愛の人だ。俺のために必死になって看病してくれたフィンを見て、体が癒されるとともに、惹かれていた。同性であるから、対象にはならないと思って気持ちを抑えていたが、その……ああいうこともあったし、余計に膨らんでしまって……もう抑えることができない。離れてからもずっと、フィンのことを考えていた。死んでも生きても同じだと思っていたが、フィンが俺に生きる希望を与えてくれたんだ」
出会った頃、まったく喋らなかったウルフとは別人のように、フィンのこととなると、言葉が止まらないという風にウルフは真剣に告白してくれた。
「今日は色々なことがあって頭がいっぱいで……、でも、俺も……ずっとウルフのことを考えていました。貴方が剣を持った時、貴方になら殺されてもいい……と」
「フィン……、そんなことは絶対にっ」
「分かってます。でも、それくらい……俺もウルフが……。同性とか関係なく、誰にもそんな気持ちを抱いたことがなかったから、あの時は言えなかったけど……あの……だ……」
「だ……?」
ウルフがゴクリと唾を飲み込んだので、フィンも緊張してしまった。
この人は敵国の兵士で、さっき首を落としたばかりの人だ。
でも、そんなこと、どうでもよかった。
「大好き……です」
「フィン!!」
ウルフが大きな体で抱きついてきたので、フィンが乗っていた机はバキッと音を立てて壊れてしまった。
何とか形を留めているが、また体重をかけたら真っ二つになりそうだ。
「ちょ……ウルフ、重いーっ」
「わ、わ、すまない、つい嬉しくて……」
嬉しくてで押しつぶされたらたまらないが、そんなことも嬉しいと感じてしまった。
「待って、その目隠し、いつまでしているんですか? それに、なんだか……まるで全部見えているみたいに……」
先ほどから感じていた違和感がどんどん大きくなってきた。ウルフの動きは、もうどう見ても、目が見えない状態ではなかった。
穴でも開けているんじゃないかと、目隠しに顔を近づけたら、チュッと口を吸われてしまった。
「なっ、なに……? ウルフ!」
「スマン……、可愛い顔が近くに来たら、つい……」
ふざけている場合ではない。
ちゃんと話してもらおうと両腕を掴んで逃がさないという顔をしたら、ウルフは分かった分かったと言って宥めてきた。
「白状する。俺も神力があるんだ」
「それは……その回復力からそうだと分かっていましたけど……」
「それなら話が早い。俺の神力は治療ではないんだ」
神力を持つ人のほとんどは治癒能力を高めるものだが、特殊な力として現れることもあると聞いたことがあった。
「オーランドでは、神眼と呼んでいる。説明が難しいのだが、第三の目という感じで、両眼の他に体に現れない目を持っている。感覚的には額の位置くらいだな」
「第三の目? それは……普通の目と何が違うのですか?」
「意識して見なければ見えない。表情とか細部が見えるわけではなく、人や物の輪郭が見えるというのかな。そのものが持つ、力が色のついたオーラのように見える」
「オーラ……ですか」
「ああ、だからオーラを覚えれば、誰だかはだいたい判別がつく。相手がどこに力を込めているのか分かるから、戦いにも使えるし、悪いことを考えていたら、禍々しい色のオーラが見えるから、それも役に立つ」
「なるほど……なんとなく分かりました」
神力は人智を超える力だ。
フィンだって、自分の治癒力について上手く説明できないので、そういうものだと思って捉えるしかない。
「それで、生活する分には困らないから、相手を油断させるために、目隠しをつけたままだったのですね」
「いや、まぁ……そういう効果もあるが……フィンが自分がいいと言うまで外すなと……言ったから……」
「ええっ、まさか……確かに言いましたけど……それでずっと外していなかったのですか!?」
そうだと言って頬を赤らめているウルフを見て、フィンは驚いた。
こんな人だったのかとなんだか新鮮で、とても可愛く見えてしまった。
「……外しますよ」
「ああ、フィンが外してくれ……」
いつかウルフの目が治ったら、最初に見るのは綺麗な景色がいいと願っていたのを思い出した。
このままだと、自分が映ってしまうがいいのかと少し躊躇っていると、フィンの手の上に、ウルフが自分の手を重ねてきた。
「早く……フィンの顔が見たい。それだけを力に頑張ってきた」
「それは……、本当に何もない……というか、期待通りじゃなかったら、すみません」
整っているウルフの顔に比べたら、自分は誇れるようなものは何もない。
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