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信じられない。
一つ切れる度に体が自由になっていく感覚があるが、これは夢なのか幻なのか、もしくは死後の世界なのかと考えてしまった。
ガサガサと袋が剥ぎ取られて一気に視界が開けた。
目の前に心配そうな顔をしたウルフが見えて、心臓が止まりそうになった。
「ひどいな、猿ぐつわか。ノラめ……一振りで仕留めるんじゃなかった。火で炙って殺ろすべきだったな」
頭の後ろで結ばれていた猿ぐつわと、口の中の布を取り払われたら呼吸が楽になり、息を吸い込みすぎて、フィンはゲホゲホとむせてしまった。
「な……なに……生きて……、俺……生きて……」
自分の首に触れながら、フィンが目を白黒させていると、フィンの背中を撫でながらウルフが息を吐いた。
「当たり前だ。フィンを殺すわけがあるか。首を切ったのはあっちだ。支えるようにここへ呼んだ男だ。変装していたのはすぐに分かった」
「……え、うわっ!」
ウルフが指差した方向には、半分包帯が剥がれ落ちているノラの頭が転がっていた。
おまけにフィンの横には首のない体があって、血溜まりができていたので、今度は息を吸い込みながら叫んでしまった。
「え、ど、え? なに? どうして?」
頭が混乱しすぎてもう何も考えられない。
目を回し始めたフィンを抱き抱えたウルフは、そのまま軽く横抱きにして立ち上がった。
周りの兵士達は呆気にとられた顔で、みんな口を開けたまま固まっていた。
「エリアス、あとは頼む」
「はいはい、団長様。お任せを」
ウルフが近くにいた部下らしき男に声をかけると、慣れた様子で男は手を叩いて、これからのことを説明すると声を上げた。
その騒がしい場所を背中にして、ズンズンとウルフが歩いて行くのだが、ただ運ばれているフィンは、まだ信じられなくて固まっていた。
「すぐに出たいところだが、事後処理があって俺達の出発は明日だ」
「あ……あの……」
「フィン、遅くなってすまない。最速で動いたが、皇帝と議会の連中がもたもたしていて時間がかかってしまった」
「本当に……戻ってきて……」
「約束しただろう。必ず戻ると」
兵舎の中へ入ったウルフは、近くの机の上にあったものをどかして、そこにフィンを乗せた。
「怪我はないか? 先に部下に命じてフィンを安全なところへ移動させようとしたが、ノラのやつがまさかこんなことを考えるとは……」
「ウルフ……あなたは、オーランドの騎士だったのですね」
「ああ、本当の名は、ウルフレッド・ブラッドリー・ランヒューズ。出自はオーランドの貴族だが、非嫡出子であるため、微妙な立場で、幼い頃に騎士の養成所に入れられた。剣一本で生きてきたが、国王の目に止まり近衛隊に選ばれる。亡命してきたフレイドリと出会ったのはその頃、身辺の警護を任された。国王とフレイドリとは親友のようになって、フレイドリが皇位を奪う時には、助けになると約束した。長い時間をかけて人脈を作り作戦を練った。そしていよいよ、フレイドリを首都に向かわせるために、動くことになった」
後は前に聞いていた話が繋がっていた。
フレイドリは隠密に首都まで行かなくてはいけない。
ウルフはそのための犠牲となって一人で捕らわれた。
そして、砦から首都に送られた後、ちょうどその頃に時を同じくして、フレイドリが反乱を起こした。
混乱に乗じて上手く逃げたウルフは、フレイドリと再会して、ともに皇帝派の残党を倒して政権を掌握したそうだ。
ウルフは順を追って分かりやすく説明してくれたが、フィンには現実感がなくて夢の中のお話のようだった。
「……ということで、軍隊や治療師団も一度解散となった。新たな政権下で再び編成されるが、フィンはどうする?」
「え……?」
「俺としては、フィンをオーランドに連れて行きたい。言っておくが、家族と言える家族はいないし、男の一人暮らしの小さい家で使用人もいない。だっ……だが、フィンが来てくれるなら、雇ってもいいし、広い家を買っても……、要職は辞するつもりで……これからは給与は少ないが、それでも記念日くらいは……ちょっと奮発したりして、それで……それで……」
大きな体を丸めて何を言うかと思ったら、最初は説得する勢いだったのに、だんだん自信をなくしたのか声が小さくなって、最後は懇願するように震え出したので、フィンはぷっと噴き出して笑ってしまった。
「それって、まるでプロポーズみたいですね」
「……プロ……ポーズだが……」
「ええ!?」
ポカンと口を開けて驚くフィンを見て、まったく伝わっていなかったのかと言う風に、息を吐いて頭に手を当てたウルフはゴホンと咳払いをした。
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