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 おずおずと指を動かして、キツく結んだ目隠しを外すと、中からは思っていた通り、ウルフの美しすぎる目元が出てきた。  まだ目を瞑ったままでいてくださいと言って、フィンは急いで部屋の窓を布で覆った。  ずっと暗い状態だった目に強い光は禁物だ。  部屋全体が薄暗くなったのを確認したら、いいですよとウルフに声をかけた。  ウルフがゆっくりと目を開けた。  そこにはフィンが想像していた通り、髪の色と同じ金色の丸い瞳が浮かんでいた。 「わぁ……すごい、綺麗です。傷もないし、ちゃんと見えていますか? 眼球の動きも問題なさそうですね」  ウルフは大きく目を開けたまま固まっていた。  瞬きすらしないので、心配になってしまったフィンは、ウルフの目の前に顔を近づけた。 「大丈夫ですか?」 「ああ……想像以上で……どうしたらいいのか分からない」 「どうしたらって……」 「想像以上に可愛すぎる」 「え……!?」 「想像以上に……」 「もう、想像以上はいいですっ」  穴が開くほど見つめられて、真っ赤になったフィンが自分の顔を手で隠すと、それはダメだと言ってウルフが掴んできた。 「何だこの、目は丸くてウルウルじゃないか。目の下の膨らみも、すべすべお肌も、鼻の穴すら可愛すぎるっ、何だここは? キャンディでも出てくるのか?」 「やめてやめて、出てくるわけないでしょう!」 「今、分かったぞ」 「……何がですか?」 「俺は不動の心を持った堅物騎士団長、無用の長物とまで言われていたが……」 「言われすぎでしょう……」 「人を愛すると、とんでもなく溺愛してしまうらしい」  もう、ツッコミどころが分からなくて、がくんと頭を下げたフィンは、込み上げてきた笑いが止められなくて、大きな口を開けて笑ってしまった。  どうやら不動の騎士団長は、自分と同じ、恋愛に関しては完全な初心者のようだ。  もしかしたら、お互い初恋かもしれないなと思ったら、嬉しくなった。 「あー、どうしたらいい、こんなの気持ちが……重すぎるよな、いったいどうしたら」 「ふふっ、どうする必要もないですよ」  暴走したと思ったら今度は心配しだしたので、真面目な人ほど染まると面白いなと思ってしまった。  ウルフの鍛えられた首に手を回したフィンは、耳元に口を寄せた。 「俺も、同じですから」  いたずら心が湧いて、頬にチュッと口付けてみたら、次の瞬間、机の上に押し倒されてしまった。 「ハァハァ……フィン、我慢できない……」  即着火して、目が完全にギラギラの興奮状態になってしまったウルフを見て、フィンは早くもいたずらを後悔した。 「ちょっ、さすがに、今は……マズいじゃ……」 「フィンーーー!」 「わぁぁっ、待ってっ、待ってーー!!」  獣のように襲いかかってきたウルフに、限界を迎えた机はバキバキと音を立てて崩れた。  それと同時に、ウルフを呼びに来たであろう部下の兵士達がドアを開けて、唖然としている顔が見えてしまった。  帝国との戦争終結させた英雄の一人と呼ばれたウルフレッドだが、この日、部下の間では親しみをこめて、堅物騎士団長から、恋に落ちた狼とあだ名が変わったらしい。  翌日、オーランドに向かうことになったが、道中、ウルフの部下達から、お幸せにと言われ続けることになった。  ⭐︎⭐︎ 「フィン先生、さようなら」  小さな手が可愛らしく揺れたのを見て、フィンも手を振り返した。  オーランド国で小さな薬院を始めて二年、飲み薬や塗り薬など取り揃えているが、予約制で治療も行っている。  治りがいいと噂が広がって、嬉しいことに毎日予約がいっぱいだ。  今日も午後の診療を終えて、フィンは薬院のドアを閉めた。 「フィン、今終わったのか?」  鍵を閉めて家に帰ろうとしていたら、籠いっぱいに食材を抱えたウルフが道の反対側から走ってきた。 「お疲れさま。今日は特に難しい治療はなかったから。早く帰って、ウルフとゆっくりしたかったし」  そう言ってウルフが持ってきた籠の中から、林檎をひとつ手に取ったフィンは、一口齧って美味しいと笑った。  ウルフは帝国との戦争が終わったことを機に、惜しまれつつ騎士団を辞めて、今は後輩の育成のため自宅で剣術指南所を開いている。  国の王子達もウルフを剣術の師匠としていて、月に何度か王城にも出向いている。  オーランド国では同性結婚の制度はないが、人々の理解も進んでいて、フィンとウルフは夫婦として周囲に認められている。  町の教会で二人だけの小さな結婚式も挙げた。  新婚旅行だとオーランド国を回る旅にも出て、ほとんど交流はないと聞いていたがウルフの家族も紹介された。
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