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 昔はいい関係ではなかったそうだが、大人になった今はそれなりに上手くやっているらしく、フィンも歓迎してもらえた。  穏やかで平和な毎日が幸せだ。  フィンはこうやって、何気なく、ウルフと二人で歩いている時が好きだった。  片手で籠を抱えたウルフが、さりげなくフィンの手を握ってきた。  大きな体で最強の剣士と言われているくせに、ウルフはとっても寂しがりだ。  いつもくっついていないと嫌だと言って甘えてくるので、文句を言いつつ、フィンはとても嬉しかった。 「フィン」 「んー?」 「俺はとても幸せだ」  ふいにそんなことを口にして、笑顔を見せてくれるウルフのことが、たまらなく好きだ。 「うん、俺も。幸せ」  そう言って手を握り返した。  でこぼこした道も、平坦でつまらない道も、ウルフと一緒なら……  実はずっと年上だと思っていたのに、ウルフの方が一つ年下だと知って、偶然かもしれないが弟との繋がりを感じてしまった。  時々、遠くの空を見上げながら、アル、兄さんは幸せだよと心の中で話しかけている。  きっと、見ていてくれると信じて…… 「そういえば、ウルフの第三の目だけど……」 「ん? 神眼がどうした?」 「前に、始めて俺に会った時、見たこともない色って言っていたけど、どう見えていたの?」  ああと思い出したようにウルフは口を開いた。 「黄金色だ。まるで神の使いかと思った……、きっと運命の相手だったからだな。今も時々、金色に光る時がある」 「え? どんな時?」  興味が湧いて身を乗り出したが、口に手を当てたウルフは秘密だと言って耳を赤くしていた。  なんとなく、こういう時のウルフは変なことを考えているので、じっと見つめてしまった。 「ああ、思い出してしまった……。あの小屋で俺の看病をしている時、フィンは俺のアレを触ろうとしてやめた時があっただろう」 「え……な……なぜ、それを……」 「いや、だからさ……動きは見えていたから……、あれはヤバかった」 「いっ、いいーー! やめて、思い出さないで!」 「恥ずかしそうに手を伸ばして……俺は、あの指の動きまで覚えて……って、ゔおっ!」  秘密にしたかったことをバラされて、フィンはウルフの背中を叩いて小走り逃げ出した。 「フィンー、先に行くなってー」  追いかけてきたウルフが余計なことを喋らないように、フィンは齧っていた林檎をウルフの口に咥えさせた。 「それ、忘れてね」 「分かった、分かった」  むしゃむしゃ林檎を食べながら、ウルフは笑っていた。  細かいところまで、よく覚えているこの男は、絶対に忘れないだろうなと思ったので、フィンの方が記憶からなくすことにした。  忘れろ忘れろと、こめかみを指でぐりぐりしていたら、近づいてきたウルフが耳元に話しかけてきた。 「今夜、めちゃくちゃ抱くから」  熱湯を注がれたみたいに、フィンが真っ赤になったところに、前から歩いてきた近所の奥様とすれ違った。  二人の様子を見られて、あら今日も仲良くて羨ましいわねと言われてしまった。  ウルフは照れながら笑って、今日も仲良ししますのでと言ったので、フィンはクラクラしてしまった。  また近所の奥様方から、ラブラブ新婚さんとあだ名で呼ばれてしまうことが決定した。 「ウルフー」  一つ年上として、人付き合いについてガツンと言ってやろうと名前を呼んだら、ウルフは花が咲いたような笑顔で振り返ってきた。 「フィン、林檎と一緒に指まで齧ってしまった。早く帰って治療しよう」  そう言って微かに血が出た指を見せてきたので、怒る気も失せてしまった。 「俺の治療師は可愛くて優しくて、最高だな」 「もう……、仕方ないなぁ」 「あ、エッチで最高を忘れていた」 「……ばかだ」  今日も何でもない道を、二人で並んで歩く。  角を曲がったら見えるのは、二人の家。  もう少し、もう少し。  早く着いて欲しいけど、まだ歩いていたい。  それはとても幸せな帰り道だった。  (終)
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